promised tune




***


「えっ?」
「ちょ…ちょっと待ってください、イオン様…今何とおっしゃったのですか?」
アニスが椅子から立ち上がり、ティアも腰を浮かせる。
大地降下を翌日に控え、一同はユリアシティのティアの家で最後の会議を行っていた。
「ラジエイトゲートには、僕一人でいきます」
にっこりとそう宣言したイオンに、ジェイドは溜息をつき、ティアは思わず強い調子でテーブルを叩く。
「反対です!そんな危険なこと…せめてアニスだけでも一緒に…」
「そうだよ、イオン様一人なんて…それじゃ何のための導師守護役かわかんないよ!」
「流石にそれは…無茶なんじゃないか?」
ガイも苦笑する。
恐らくアブソーブゲートにヴァンがいる。ではどういうふうに人員を分けるか。
そんな話が出た矢先だった。
「ティア、アニス…ありがとうございます、僕の事を思ってくださって」
イオンは微笑み、しかし真剣な表情に戻って一同を見回した。
「でも、お願いします。僕に行かせてください」
何かを決意したようなその表情に、ルークはガイと顔を見合わせる。
「どうしたんだ?イオン…」
「確かに、アブソーブゲートに確実にヴァン謡将がいるのならば、戦力の分散は避けたいところです。しかしイオン様だけというのは…」
ジェイドが難しい顔で考え込む。ナタリアも深刻そうな表情で続けた。
「可能性が高いというだけで…その裏をかいてラジエイトゲートにヴァン謡将が居る可能性もあるのでは?」
「最初の予定通り、俺がラジエイトゲートに行けば問題ないことだろう」」
溜息混じりにアッシュが言うと、ティアとアニスが一斉に頷く。
「それも一つの手ではありますが…万が一ヴァン謡将がラジエイトゲートに向かった場合、アッシュ一人で持ちこたえられるとは思いません」
「それは…やはり平等に戦力を分けるべきです、大佐」
「そうだよ。イオン様一人なんて、絶対駄目だからね!」
必死に言い募るアニスたちの頭上を飛び越えるように、部屋の隅の椅子に座っているアッシュへとイオンは声をかける。
「アッシュ…僕一人なら、ヴァンはかえって手を出さないでしょう。彼が望んでいるのは、アッシュやルークと相対することのようですから」
「だが人質に取るくらいの事はするかもしれないぞ。あいつが相手じゃ逃げる事も難しいだろう」
アッシュの言葉に、イオンはしばし考え込む。
「ええ。ヴァンは強い。僕は彼を傍で見ていましたから、それをよく知っています」
イオンは少し困ったように微笑んで、ジェイを見る。
「僕一人ではとても勝てないでしょう。ですから、もしヴァンがラジエイトゲートに来る事を選んだ場合は、投降することで時間を稼ぎます」
「でも…他の六神将が来たら?」
なおも心配そうなアニスに、優しく言い聞かせるようにイオンは話す。
「その時は…ダアト式譜術の力を思い知ってもらう事になるでしょう。幸いこれまで力を温存してきたおかげで、術の制御をするだけの余裕が十分にありますから」
「イオン様…」
「封印術でもない限り、六神将相手に負けたりはしませんよ。それはアニス、君が一番よく知っているでしょう」
イオンの言葉に、アニスは下を向いた。
ここまで自分の意見を押し通そうとするイオンなど、これまで見た事がない。
アニスだけでなく、誰もが戸惑っていた。
「ヴァンは…あいつは…ルークやアッシュの言うとおり、アブソーブゲートにくると思うぜ」
かつてアブソーブゲートでの戦いで、ヴァンはルークたちに敗れた。
「あいつの性格からして、再戦する気満々だろうからな」
「ええ。ですから…」
「なるほど、不均等に戦力を分配するというのも、一理ありますね」
苦笑しながらジェイドが頷く。
「でもでも、パッセージリングの封印は?ローレライの鍵がいるんだよね?」
「確かその封印ももう解けているんでしたね、アッシュ」
ジェイドが視線を送ると、アッシュが頷く。
「ああ…アブソーブゲートのほうは知らないが、ラジエイトゲートのほうは俺が行ったときに既に封印が解けていたのを確認した」
地殻の振動の計測が順調に進んだため、そのままラジエイトゲートまで足を伸ばして大地降下の準備をしてきたのだという。
「手際が良くて助かりますよ」
アッシュの行動力に、ジェイドはそう笑う。
「ふん。確かにパッセージリングの書き換えはしてあるが、封印が解けていた以上下手に起動はできなくてそのままにしてきたからな…しかしあれがヴァンの仕業だとは思えないが…」
「むしろ心配なのはパッセージリングまでの道中です。いくらローレライの鍵で封印が施されていたとはいえ、侵入者防止用の魔物も放されているでしょう」
「そうだな、あそこの魔物は結構やっかいだ。そこまで強くはないんだが、やたらと時間稼ぎをしてくるやつが多い」
ガイがその事を思い出したのか、嫌そうに溜息をつく。
「連れて行くなら、漆黒の翼がいる」
ぼそりとアッシュが呟いた。
漆黒の翼はこれまで、アッシュを雇い主として世界中を飛び回っていたのだ。
腕も立ち、信用も置ける。
費用はかさむがな…そうアッシュが肩をすくめる。
「そうですね…露払いは彼らに任せるのがよさそうです」
「じゃあ私もイオン様と行く」
「アニス…」
「だって、私は導師守護役なんだよ?こういう時こそイオン様を守らなきゃ」
一歩も退かないアニスの言葉に、イオンが首をかしげた。
「では…こうしましょう。アニス」
「はい」
「今をもって、あなたを導師守護役から解任します」
「え…?」
いきなりの宣言に、アニスだけでなくその場の一同が絶句する。
「待ってください、イオン様…」
とりなそうとしたティアに、微笑みかけて。
「ただし、大地降下作業が成功したら…その時にはまた、導師守護役についてもらうことにします」
取り付く島も無い言葉に、アニスが小さく震える。
「そんな、そんなのって…」
しゃくり上げるようにつぶやくと、アニスは二階へと駆け上がっていった。
「あ、アニス!待って…!」
慌ててティアがその後を追う。
「珍しいな、イオン」
「これがお前だったら全然不思議じゃないんだけどな」
「なんだよそれ」
「普段の行いの差だろう」
ルークたちの会話に苦笑しながら、ジェイドがイオンを見る。
「少し、休憩としましょうか」




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