promised tune



全ての視線が一瞬、ルークへと集まる。
「師匠…」
ローレライをルークに返す。
その言葉を信じても良いのだろうか?
小さく呟くと、迷うように唇を噛みしめた。
ちらりと目を走らせるのは、アッシュが横たわっていた場所。
「ヴァン…アッシュを何処へやった?」
同じことを考えたのだろう。ガイの鋭い声がヴァンに向けられる。
「あの俺のレプリカを作ったのは…お前なんだろう」
アッシュを傷つけた、ガイのレプリカ。
この世界でレプリカを作り出す技術や設備を使える人物は限られている。
「アッシュ…?ぐっ…げほっ」
せき込んだヴァンの口から、赤黒い血が吐き出される。
「兄さん!」
「ふ…ローレライ…お前はまだ足掻こうというのか…」
小さくうめくその口の端には血の泡。
「ヴァン…お前じゃ…ないのか?」
「では、アッシュはどこに行ったというのでしょう…」
泣きそうにも聞こえる声でナタリアが呟く。
「ご主人様…強い音素を感じますの…」
ルークの肩にしがみついていたミュウが、不安げに振り返る。
ヴァンの腕を良く見ると、時折透けるように明滅していた。
「音素が乖離しかかっているようですね。ローレライを抑えきれなくなっているのでしょうか…」
低い声でジェイドが呟く。
その身体がもう限界に近いという事は、誰の目にも明らかだった。
「ティア、リザレクション≠…俺達だけじゃなく、師匠にも」
「ルーク!それは…あの傷では…」
「…時間を稼ぐ程度にしか、ならないわ」
ティアが唇を噛む。神託の盾の譜術士として戦いの中にも身を置いていた彼女には、ヴァンの傷が手遅れなほど深いのがわかっていた。
「ルーク…迷っている、暇など…お前にあるのか?」
まるでその声に操られるようにゆっくりと、ルークがヴァンを見る。
「ルーク、ローレライを受け取る影響について考えているのですか?」
ジェイドが目を細める。
ルークが闇雲に近づくのではなく、ヴァンをわずかでも回復させる方法を選んだということに内心安堵していたが、そんな事は顔に出さずあくまでも冷静に続ける。
「かつてヴァン謡将にローレライの力を抜き取られたとき、あなたは…左目の視力を失っています」
ここでローレライをもう一度その身に戻して、同じような事は起こらないのか。
「…わからない。でも…」
ルークはそっと左目に被せられた眼帯に手をやる。
他に方法はない。
「アッシュを探すには、ローレライが必要なんだ。だから…ティア」
ルークの呼びかけに、ティアが小さく頷く。
―――女神の慈悲たる癒しの旋律…
淡い光が、ティアを中心に輪となって広間の床を駆けていく。その光がヴァンに届くと、その弱々しい呼吸がわずかに落ち着いたように思えた。
「さあ受け取るがいい。この罪なる光を…」
ヴァンはゆっくりと、ルークに向かって手を伸ばす。
「今…このまま私が死ねば、私の中に捕えたローレライは散っていくだろう」
何かを抑えるように拳を握り、ヴァンは言葉を吐き出す。
「そもそもお前を器として、辛うじて自我を保っていただけの欠片≠ノ過ぎん…これが完全なるローレライであれば、ここまでは…」
こうして死にかけている身体でも抑えていられるほどその力は弱い、と皮肉そうに口の端を歪める。
「完全なるローレライではないとはどういうことです?」
ジェイドは訝しむように眉をひそめる。
ルークはそのまま何も言わず、じっとヴァンを見つめていた。
繰り返す時の中で、ヴァンはルークよりもはるかに多くの情報をローレライから得ただろう。
自分は今、いったいどれだけのことを知っているのだろうか。
「ルーク?」
心配そうなティアの声。
「ねぇルーク…本当に総長に近づいて大丈夫なの?」
「信用してよいのでしょうか、今更…」
アニスたちの戸惑うような言葉。
「俺は…師匠を信じるよ」




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