promised tune




「兄さん…」
ティアの小さな呟き。
ルークが何かを言いかけるのを押しとどめるように、ヴァンの言葉が響く。
「…私はまた、同じことを言わねばならんようだな」
「師匠…?」
「私に必要なのはアッシュ、お前のほうなのだ」
「!それは…どういうことですの?」
ナタリアの問いかけを無視して、ヴァンはアッシュのほうへ視線を向ける。
「抜け殻のレプリカに用はない。さあアッシュ!お前の内に眠るローレライを、渡してもらおう」
「なんだと…?」
「アッシュの中に、ローレライが?」
「ふざけるな!お前に渡すものなど、何一つあるものか」
アッシュは剣の柄に手をかける。
「ふざけてなどいない。お前もわかっているはずだ」
「っ…!?」
ふいに右目に走った熱さに、アッシュは顔を押さえる。
ぼんやりと、ヴァンの全身が明滅を繰り返す。
鼓動のようなその光にあわせて、アッシュの右目が僅かに輝き始めた。
「私の中のローレライが、お前を呼んでいるのを感じるだろう?」
にやりと笑って、ヴァンは剣を抜く。
一歩下がったアッシュも、その剣を抜き放った。
それを合図に、それぞれが武器を構え、譜術、譜歌の詠唱を始める。
「ふ…どれだけで来ようとかまわん。最後に立っているのは、私なのだからな!」
アッシュの前にガイが走りこむ。
ギィン!と金属のぶつかり合う音。
剣と鞘を交差させ、ヴァンの剣を受け止めたガイが真っ直ぐその瞳を見据えた。
「ヴァン…俺はお前を、止める!」
「貴公が…いや、お前が、私を?」
動じた様子もなく、ヴァンはその腕を振るう。
「できるものなら、な!」
「くっ…!?」
ビリビリと剣を持つ手が痺れる。
ヴァンは軽くなぎ払っただけのように見えたが、ガイの身体は大きく跳ね上がった。
「ガイ!」
その後ろからルークが切り込む。数度斬り合って、ルークはハッと息を飲んだ。
ヴァンの振るう剣自体が、ヴァンの身体を包む光と同じ、明滅する第七音素に覆われているのだ。
「これ…はっ…」
以前、自分の瞳が金色になっていたときに起こったものと同じ。
超振動に似た、自身と武器の共鳴。
ただでさえ達人と呼ばれるヴァンの剣の腕が、その力によってさらに増幅されているようだった。
斬り合う一太刀一太刀が、驚くほどに重い。
「イグニートプリズン!」
ルークが離れた一瞬の隙を狙って、ジェイドの譜術がヴァンを包み込む。
しかし、巨大な魔物を一瞬で灰燼に帰すほどの威力を持ったその譜術でさえも、ヴァンの剣の一振りによってあっさりと弾き散らされてしまった。
ナタリアが懸命に射掛ける矢も、巨大化したトクナガによるアニスの体当たりも、あっさりと受け流される。
「はっはっはっは!己の無力さを思い知ったか?」
「チッ…!」
弾き飛ばされたアッシュが舌打ちをする。
気付けば、ルークたちは皆傷だらけになっていた。
ティアが懸命に譜歌で癒しているものの、あまりにも分が悪い。
ヴァンが切り付けるたびに、辺りの空気までビリビリと振動する。
ある程度の距離があるとはいえ、このままではパッセージリングにも何らかの影響がでてしまいそうだった。
「くそっ…どうすればいい?」
誰にともなくルークは呟く。
ヴァンの使うローレライの力が弱まりさえすれば、まだ勝機はあるというのに。
「無駄な足掻きはやめたらどうだ!」
ティアが投げたナイフを剣の柄で叩き落して、ヴァンは笑った。
「メシュティアリカ、お前も私と一緒に来るがいい。こんな歪んだ世界を崩し、本来の純粋な姿へとこの星を戻すのだ!」
「…兄さんは間違ってるわ!どうして?ユリアの譜歌を私に教えてくれたのは、預言の何たるかを聞かせてくれたのは、兄さんじゃない!」
悲鳴にも似たティアの叫び。
「ユリアの譜歌…」
ルークはハッと思い出す。
ローレライを縛り付ける、金色の鎖。
契約を交わしたユリアの力ならば、ローレライを抑えられる。
「ティア!譜歌を…大譜歌を歌うんだ!」





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