promised tune




「やはり、これだけ大きいと安定感が違いますわね」
ナタリアが甲板で声を上げる。
海原を滑るのはアルビオールではなく、シェリダンで改造されたタルタロスだった。
「ふむ、思ったよりも起動はなめらかですね。さすがはシェリダンにめ組ありと言われる腕だけのことはあります」
アルビオールにその部品を転用するため、タルタロスは航行不能の状態になっていた。
足りない部品を補うためには、せめてグランコクマまでは辿り着けなければならない。
そこで、シェリダンで急遽、代用の部品を用いて海上を移動できるような機能だけ補完したのだ。
「大佐ぁ、あれ…何だと思います?」
前方を眺めていたアニスが、急に大声を出した。
甲板を警備している兵士も含め、みなの視線が一斉にその方向へ集中する。
アニスが差しているのは、遥か上空。
太陽を背に、何かの影が横切っていく。
「アルビオール…ではなさそうね」
眩しそうに目を細めたティアが呟く。
「魔物でしょうか」
「恐らく、そうでしょうね」
ジェイドの言葉を受けたナタリアが弓に矢をつがえ、その影を狙った。
ヒュン、と風を切る音。
上空から小さく、何かの悲鳴が聞こえた。
「当たったのかしら?」
ティアが首を傾げる。
その影が、何かを落としたように見えたのだ。
それは最初小さな点だったが、やがてみるみるタルタロスに向かって近づいてくる。
「うっわ…あれ、もしかして…」
「!…タルタロス、全速前進!……間に合いませんかねぇ」
ジェイドが小さなため息をつく。
それは良くわからない声を上げながら、やがてタルタロスの甲板に墜落した。
「ううううう…水…水を下さい…」
「残念、まだ生きているようです…さあナタリア。もう一度!」
「大佐!あれは魔物ではありませんわ」
「いやぁ、似たようなものですよ」
「魔…魔物じゃありませんよ失礼ですね!って!ジェイド!ジェイドじゃありませんかっ!」
「人違いですよ。そんな人知りません」
「きいぃぃぃっ!っうぇっげほげほげほっ…み、水を…っ」
「はい、ディスト」
アニスが差し出した特大のコップを受け取り、一気に飲み干す。
それは紛れもなく、ダアトから逃げ出してきたディストだった。
「ぶはっ!…はーっ…さすがの私も死んだかと思いましたよ」
「まったく、残念です」
「いい加減になさい!ほんとうにもう!私は、シンクから、これを預かってきたんですからねっ!」
ディストの服はあちこち破れ、ボロボロになっている。
それでもしっかり握り締めていたらしい小さな石を、ディストはジェイドに向かって掲げた。
「おや、これは…」
それをひょいと取り上げ、ジェイドはまじまじと眺める。
「飛行譜石ですねぇ。…では、アッシュが手配したと言っていたのは…」
「それをアッシュに渡しなさい。いいですね、確かに預けましたよ?」
ディストはそう言うと、深くため息をつく。
その様子があまりにいつもと違うので、アニスは思わずその額に手を当てた。
「熱でもあるんじゃないの?ディスト」
「違いますよ!…まあ、たまにはため息をつきたい気分のときもあります。あるんです」
「何かあったのですか?」
ナタリアがまた差し出した水を、今度は一口含む。
「…アリエッタと…そして恐らくシンクも、死にました」
「!!」
「アリエッタって…あの…?」
「な…んで?何があったの?ねえ、ディスト?」
不思議な静けさがタルタロスの甲板を満たす。
ディストはアクゼリュスでイオン―――だと思っていたシンク―――を攫った後のことを、ぽつりぽつりと話しはじめた。

***

「そうか、シンクが…」
「確かに伝えましたからね」
グランコクマについたジェイドたちを待っていたのは、アッシュと、そして宿屋で眠り続けているガイだった。
ガイの傷は予想以上に深く、ここグランコクマの譜術師に治癒を施してもらってもまだ、その意識がもどらない。
アッシュはディストからシンクの伝言を聞くと、それ以上何も尋ねることなく身を翻す。
その手には飛行譜石が握られていた。
「アッシュ?」
「シェリダンに行く。アルビオールで戻るまで、ここの宿屋で待っていろ」
ナタリアの呼びかけに振り向いたアッシュは、そう告げると港へと消えていった。





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