promised tune




偶然だった。
飛行譜石がダアトから持ち出されたとの噂を聞いて街を巡っていたアッシュは、大きな地震を感じた。
それは明らかに、セフィロトの異常を表すもの。
周囲の様子を確認しようと上った小高い丘の上で、剣を交える人影を見つけたのだ。
一人は劣勢。身体中が血にまみれ、苦しげに片膝をつく。
その背に今にもとどめの刃を突き立てようとしていたもう一方は、アッシュに気付いて顔を上げる。
それはアッシュが見知った顔で、思わず呼びかけた。
「ガイ…?」
「!」
しかし次の瞬間、彼は丘の向こうへと姿を消す。
後に残された傷だらけの男のほうへ近づき、アッシュは今度は驚きの声を上げたのだった。
「お前は…!」
「……っ…」
そう、それもまた、ガイであった。
肩で荒い息をつきながら、ガイはアッシュを睨む。
「アッシュ…?」
「お前が…ガイか」
では、今ここから立ち去ったのは…
アッシュはそのまま前のめりに倒れそうになるガイの腕を抱え、草の上にそっと横たえる。
「何しに…きた…」
「…敢えて言うなら、通りすがりだな」
「はっ…馬鹿にしてるのか?」
携帯していた薬を取り出し、その傷に振りかける。
効力はそれほど強いものではないが、ないよりはマシだろう。
ガイはまだ苦しげに、それでもアッシュを拒むかのように手を払い、身体を起こす。
「アッシュ、お前は…俺のことを知っているんだろう」
何のことだ、とは言わなかった。
「お前がホドの出身で、家族をキムラスカに―――ファブレ公爵の率いる軍隊に殺された男だということか?知っているが、それがどうした」
アッシュの言葉に、ガイの表情が変わる。
「どうした、だと?お前にとってはその程度のことかもしれないがな…俺には…俺にとっては…」
自分の父親がホド戦争でキムラスカ軍を率いていたことは知っていた。
そして、ガイの母親を手にかけた張本人だということも。
「それで?ここで俺に剣を向けるか?」
「だとしたら、どうする」
ガイの声は、紛れもない殺気を含んでいた。
アッシュの薬によって僅かに回復したその腕を、剣へと伸ばす。
アッシュは手際よくガイの足の傷に包帯を巻きつけると、近くに落ちていた剣の鞘をガイの目の前に置いた。
「そのつもりなら相手になってやる。好きにすればいい」
殺気むき出しのガイに対して、アッシュはそっけないほどの返答。
「何故…なんだ?どうしてお前もルークも、そう平然としていられるんだ…?」
ギリッと音がするほど歯を食いしばり、ガイは立ち上がる。
悔しい。そう、悔しいのだ。
この感情をどこに向けていいかわからない。
ガイはアッシュを睨みつける。しかしアッシュは、ただ静かにその目を見返した。
「平然としているつもりはない。哀れんでいるつもりもない。憎みたければ憎むがいい。確かにお前は、それだけの経験をしている」
奪われる痛みはアッシュも知っている。かつて、ルークに対して抱いていた想い。
何かを憎まなければ生きていけないものもいる。これまでの自分のように…
「何故だと?知りたいなら教えてやってもいいが、お前は不幸自慢がしたいのか?」
「なに…?」
ガイが剣を構える。
応えるように、アッシュも剣を抜いた。
「手加減するつもりはないぞ。俺はルークほどお人好しじゃないからな。望まれたからといって、命を捨てることで自分の価値が生まれるなんて思わん」
それは僅かに自嘲的な響きであったが、ガイは気づかなかったかもしれない。
あの時、エルドラントで、ルークを生かすことを選んだ。
命を捨てた。しかしそれで生まれたのがより大きなルークの悲しみだったと、今は知っている。
「……」
ルーク。その言葉に、ふとガイの瞳が揺れる。
相手になると言った、アッシュのその気持ちにも偽りは無かった。
それでもふと、思い出したことがある。
アッシュは剣を下ろすと、苦笑するように言った。
「だが始める前に…あの馬鹿の言葉を一つ教えてやる。…それでもガイはガイだから=cなんだとよ」
「…ルーク…」





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