promised tune




「アニス?」
「珍しいわね…」
驚いた顔をしたのはナタリアとティアだった。
「あの…あのね…私…」
ぎゅっとトクナガの手を握り締めたアニスが、覚悟を決めた顔でナタリアたちを見る。
それは昨夜、ジェイドやアッシュと話した、アニスの両親のこと。
大詠師モースからスパイとなることを命じられていたこと。そして…イオンについて交わしてしまった取引のこと。
一気に話してしまって、アニスは大きく息をついた。
「モース様が…そんな…」
「アニス…辛かったでしょうに」
アニスは二人の言葉に、一粒の涙を零す。どうしてこの人たちは、自分を責めないのだろう。
「許してほしいなんて思えない。でも、だから…何か役に立つことがしたいんだ」
悲壮な表情で顔を上げたアニスに、ナタリアとティアは顔を見合わせた。
「アッシュ、アニスを連れて行ってはどう…?」
ティアの言葉に、しかしアッシュはゆっくりと首を振った。
「いや、一人のほうが都合がいい。他のヤツはタルタロスのほうへまわってくれ」
「アッシュ…大丈夫なのですか?」
「心配するな。アルビオールが飛べる状態になったら、グランコクマへ行く」
そして、じっと言葉を選ぶように考えた後、アニスを見る。
「アルビオールが飛んだら、イオンを迎えに行く」
「!」
アニスの表情が輝く。ジェイドも頷いて、一同を見渡した。
「ではシェリダンについたら二手に分かれるのですね」
「そうですね。私たちもタルタロスを回収して、なんとかグランコクマへ行きましょう」
ほう、と小さく聞こえたため息。
ジェイドがふとそちらを向いて、首を傾げる。
それはナタリアのものだった。
「どうしました?」
「ルークが居ない間に…こんなにもいろいろなことを進めてしまって良いのでしょうか」
アッシュも一人で行くといっていますし、と浮かない顔をする。
何か言いかけたアッシュを視線で制すと、ジェイドはゆっくりと言葉を紡いだ。
「そうですね…確かに、彼らの記憶は便利です。その知識が今どれだけ私たちを救っているか、計り知れません」
ジェイドの言葉の意図を測りかねて、ナタリアだけでなくティアも訝しげな表情になる。
「しかし、これは私たちの世界のことなのです、ナタリア。ただ彼らにその答えを求め、彼らの肩だけにその荷を負わせていいはずがありません」
きっぱりと。
強くそう言い切ったジェイドの言葉に打たれたかのように、ナタリアは顔を上げる。
「そう…そうですわね」
ふっと表情を緩めたジェイドが、窓の外に広がる海原を見つめながら呟いた。
「まるでユリアの預言ですね」
「え?」
「未来への導が存在するとき、私たちはかくも容易くそれに縋ってしまう」
その口元には苦笑。
「でもそれは定められたものではなく、あくまでルークやアッシュの見た世界の可能性の一部でしかないのでしょう」
ジェイドの言葉に、ほんの僅か、アッシュが頷いた。
「可能性の高いものほど目を背けることはできません。利用できるものは利用してもかまわないでしょう。でも、それが全てだと信じ込むのは危険です」
目の前に広がる世界。それはどんな可能性をも秘めている…そのはずなのだ。
「何を選び取るのかは、それを知った私達の側に託されているんですよ…っとまぁ、これもルークの受け売りのようなものですけどね」
おどけるように指を振って見せて、ジェイドはナタリアを見た。
「あなたは今、何を大切に思っていますか?ナタリア」
「わたくしは…キムラスカの民が大切です。アッシュのことも、…そしてルークも、同じくらい大切なのですわ。だから、その大切な人々が悲しむことのないよう、わたくしに出来る限りの事をしたい。そう思っています」
迷わずそう言い切ったナタリアに、ジェイドは笑顔を浮かべる。
「あなたのその慈愛の気持ちには頭が下がります」
「大佐はどうお考えですの?」
逆にそう問い返されて、ジェイドはしばし腕を組んだ。
「そうですねぇ…まあ私は冷徹なマルクト軍人なものですから、民がどうとかというよりも、上司命令ですかね。わが帝国の皇帝陛下はあなたと同じくらい頭が下がってしまう人なんですよ。ええまったく」
「まあ。すばらしい方ですのね」
本気とも冗談とも取れないその言い方に、その上司≠知らないナタリアは素直に賞賛する。
「そしてできるなら、ルークの惑いが晴れればいいと思っていますよ」
その言葉に振り返ったのはアッシュだった。
「惑い…」
「彼にとって、私たちはもしかするとかつての仲間に良く似た誰か≠ネのかもしれません」
この世界には存在しない、自分とルークとの記憶、やり取り。ルークだけが覚えている何か。
「でも私にとって彼は仲間≠セと…そう言っていいと思っているのですが」
「ええ。そうですわね。大切な…仲間≠ナすわ」
「ですの!」
いきなり目を輝かせて話に割り込んできたミュウを見て、ナタリアもティアも、アニスも笑った。
「もちろんあなたもですよ、アッシュ」
いきなり呼ばれた自分の名にどう反応すべきか迷ったアッシュは、憮然と黙り込む。
「アッシュさん、照れてますの?」
また、笑い声がアルビオールの艦内に響いた。





BACK / NEXT