promised tune




ジェイドが腕を組む。
「アクゼリュスが崩壊してしまったことによって、親書の条件を満たさなくなってしまいました。それどころか、キムラスカの親善大使や王女を危険に晒したとして、マルクトからキムラスカへの宣戦布告だと解釈される恐れもあります」
「そんなことあってはなりません!わたくしからお父様に説明を致しますわ」
思わず立ち上がったナタリアが、その胸に両手を当てた。
「わたくしは無事でいると、伝えなければ…!」
「そうですね。それに、ルークにも戻ってきてもらわなければいけません。親善大使として正式にアクゼリュスへ派遣された彼がもどらなければ、キムラスカは納得しないでしょう」
ルーク。その名前にティアがハッと顔を上げる。
ユリアと共に、魔界の霧に移った姿を見たきり、いまだ生死もはっきりとはわからないのだ。
「ルーク…どこにいるのかしら」
「私たちと同じこの外殻大地上にいるのならば、アッシュが何とか探してくれるかもしれません。しかしそのためには…まず翼が必要です」
「翼?」
「海上での移動は限界があります。特に国境近くは警戒も厳重です。見知らぬ船は撃沈の対象にもなる」
いまはこのアルビオールも役割としては船ですからね、とジェイドが苦笑する。
「それでシェリダンへ?」
ティアの問いに、それまで操縦に専念していたノエルがぱっと振り返り、大きく頷いた。
「はい、そもそもこのアルビオールは発掘された浮遊機関の研究によって完成したものですから、飛行譜石さえ用意できればすぐにでも飛ぶことができるような構造になっています」
「空が飛べるのなら、国境を越えるのも楽になるでしょう。パッセージリングを巡るためにも、手に入れておきたい手段です」
ただし、シェリダンでも飛行譜石はまだ手に入ってはいない可能性が高いのだという。
それを確認し、まだ手に入っていないのならば探しに行く必要があった。
「タルタロスはどうするのですか?」
このアルビオールを造るために、シェリダンへ派遣していたタルタロス。部品を提供したとはいえ、マルクトの最新の陸艦である。調整さえ出来ればそれもまた、重要な移動手段となるはずだ。
「タルタロスにもちゃんと役割があります。先程大地の降下の話をしましたね。それを実現させるには、セフィロトの操作だけでなく、もう一つ大切な準備があるのですよ」
魔界は…とその後をアッシュが引き継ぐ。
「大地があの通り液状化したままでは、仮に大地を降下させても浮島≠ノなってしまうだけだ。運が悪ければそのまま沈みかねん」
次々と挙げられる話題を必死で理解しようとするように、眉間に皺を寄せたティアがため息をついた。
その膝の上で、ミュウはすでに居眠りを始めている。
「液状化…でもあれはプラネットストームがある限り地核の振動によって発生し続ける現象だと聞いています。それを解決なんて…」
思い出したように、ナタリアが頷いた。
「それでルークは、プラネットストームを止めるなんて言っていたのですね…」
「そう、プラネットストームが止まれば液状化は止まる。しかし、それでは世界中の譜業機関の力もまた弱まってしまう。ただでさえ大地の降下という環境の変化が発生するのですから、余分な混乱は避けたいところです」
「でもそんな都合のいい方法なんて…って大佐ぁ、その笑い方気持ち悪いですよぉ」
「おや、これは失敬。しかしですね、アニス。あるのですよ。その都合のいい方法が」
「えっ?」
パチパチと瞬きをするアニス。
「それにはまず、地核の振動の周波数を観測する必要があります。そして、それと同じ揺れを地核に与えてやる…そうすれば、振動同士が相殺しあって、つまりは中和されて、振動が解消されると考えられます」
「簡単におっしゃいますけど、どうやってそれを?」
「まあ、普段なら地道に資料を当たるしかないのでしょうけれどね。こればかりは、アッシュの根回しに感心するばかりですよ」
「…相変わらず嫌味な言い方だな」
「いえいえ、褒めているんですって」
「シェリダンの技術者たちに周波数の観測装置の作成は既に依頼してある。観測が出来れば、あとはタルタロスを強化して、それで地核まで行きます」
それはアッシュがアルビオールの製作をシェリダンに依頼しに行った際のことだった。
難しい技術ほど嬉々として取り組もうとするシェリダンの技術者たちにとって、アッシュの持ち込む依頼はその技術者魂をくすぐられるものばかりだったらしい。
「地核…大佐、タルタロスってそんなところまで行けるんですか?」
アニスも文献でしかその名前を目にしたことの無かった場所。地核。
それは文字通りこの星の中心地点であり、魔界よりもさらに深い場所にある。
「そうですねぇ、何しろ最新の陸艦ですからね。障壁を最大限に使えば、装置の発動に必要な間くらいは持ちこたえられるでしょう」
「でも大佐、タルタロスはアルビオールのために部品を抜かれたんでしょ?」
「ええ、しかしそれは再び揃えれば済むことです。一度グランコクマに戻り、軍部と話をつけます」
「頼もしい限りだな」
私も死んだと思われているかもしれませんから、脅かしてしまうでしょうか。そう言ってジェイドは笑う。
「それくらいはしておかないと、私の存在感がなくなってしまいますからねぇ」
「これ以上はいらないと思うけど」
「アニース?何か言いましたか?」
「あははっ、なんでもないでーす♪」
いつもの軽い言い合いに水を差すように、アッシュのぶっきらぼうな声が響く。
「俺は飛行譜石を探す。いや、ダアトにあるのはわかっているからな。どうにかして手に入れてくる」
「あ、私も…手伝うよ。私ならダアトの奥まで行っても大丈夫だと思うし」
珍しく、そこで手を挙げたのはアニスだった。





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