promised tune
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「アリエッタ、こっちに来るんです!」 「どういうつもりだよ、ディスト…」 同じ六神将だからだというつもりはない。強いて言うなら、これまで彼女の魔物に助けられたぶんの恩は返しておかねばならないという、単純なギブアンドテイクの考え方だった。 もしくは、彼女が苦しむことになったオリジナルイオンの死とレプリカ作成に、自分のフォミクリー技術が使われているということも無意識かで働いたかもしれない。 スピノザから見せられた資料にあった、幾つもの実験データ。 その最終的な試験体となったのが、イオンだったのだ。 「さあ早く!あなたのイオン様を探しに行きますよ!」 「ディスト?」 リグレットが訝しげに振り返る。 「イオン…様…?」 そしてアリエッタは、突然聞こえたイオンの名に動きを止めた。 一瞬の静寂。 「…っ!」 それを引き裂くかのように次の瞬間、パァン!と、乾いた銃声がした。 「あ…」 「!!」 とさり、と軽い音を立て、彼女の身体は崩れ落ちる。 「……許せ、アリエッタ…」 細く煙の立ち上る銃口を向けたまま、リグレットは血が滲むほど唇を噛みしめていた。 このまま彼女を見逃すことはできない。そして、魔物達を止めるには、こうするしかなかったのだ。 彼女が暴走してしまった原因―――大切なものを失う痛みは、リグレットの胸にもある。 だからなおさら、この結末が口惜しかった。 それでもリグレットには今、絶対的に信じているものがある。 「ひ…ははは!いいぞ!そうだ、私の、いや始祖ユリアの預言に逆らうものは、皆滅んでしまうべきなのだ!」 それはこんな男のためではない…! そう心の中で呟いて、それでもリグレットは冷徹に兵士たちに指示を続ける。 腕を負傷したモースは、同時に心のどこかも壊してしまったように笑い声を上げる。 「その人形どもにももう用はない!皆消してしまえ!」 「人形…ね」 シンクが小さな溜息をひとつ落とした。 「あのさ、ディスト」 ぽん、と渡された小さな石を、ディストはまじまじと見つめた。 「何ですか?これは」 「アッシュが欲しがってたもの。渡しといて」 「は?」 シンクは肩をすくめて、ふと空を見る。 「それと、アッシュに伝えてくれる?飽きたから抜ける≠チてさ」 「ど…どういうことですか、それは…」 「こういうことさ」 どん!と背中を突き飛ばされ、ディストはよろめく。 腰ほどの高さがある石塀を超え、その身体はダアトの塀の外へと。 「にょぅろわああぁぁぁぁ・・・・っ!?」 奇妙な悲鳴と共に、ディストの身体は真逆さまに落ちていく。 シンクはそれを見送りもせずリグレットに向き直った。 小さくグリフォンの鳴き声と、羽ばたきが聞こえた気がした。 「お前らしくないな」 苦笑したリグレットが、その銃をシンクに向ける。 「そう?」 晴れた空の下、シンクの表情は変わらない。 「ちょっとイライラしちゃっててさ。…気晴らしになりそうなことを思いついただけだよ」 口の端だけで皮肉気に笑って、スッとその服の下から取り出したのは幾本かの細いナイフ。 「こんなもんしか無いのがちょっと残念だけどね」 まるで世間話をするかのような調子で言うと、それを光にかざす。 「さ、始めようよ」 次の瞬間、銃声といくつかの叫びがその空の下に響いた。 |