promised tune




「死んじゃったの…?イオン様…」
「アリエッタ、しっかりしなさい。そんなことがあるはずないだろう」
アリエッタの肩を抑えるリグレットの向こう側で、モースは薄ら笑いを浮かべている。
胸に過ぎる不安を、絶望を、アリエッタは言葉にして問う以外にできなかった。
「教えて!イオン様は…イオン様はどうしたの?」
横を通り過ぎようとしたモースの服を、彼女は咄嗟に掴む。
「ええい、うるさいわ!」
「きゃっ!」
小柄な少女など易々と振り払って、モースはなおも嗜虐的に言葉をぶつけた。
「導師は死んだのだ!劣化した模造品だけ山のように残してな!」
「…!」
ディストの横で、シンクが身体を強張らせる。
劣化した模造品。その言葉が指すのはつまり、シンク自身のことも含めたイオンのレプリカたちに他ならない。
「…イオン…様…」
アリエッタが小さく呟く。震える肩。
どす黒い何かが、彼女の胸を満たしてく。
「落ち着きなさい!さあ、この二人を連れて行って!」
―――死んだのだ。シンダノダ。死―――
「…いやあああぁぁぁっっ…!」
その細い喉から、引き裂くような悲鳴が零れ落ちる。
ぐるるるる…ううううぅぅ…
それに答えるように、ライガが前に進み出た。
一際大きくほえると、それに答えるように数匹の魔物が姿を現す。
普段ならばこの敷地内の警備のために放たれている魔物たちは、主であるアリエッタを守ろうと集まってきたのだ。
その敵意は、まっすぐにモースに向けられていた。
「くっ…だ、誰か!この魔物どもを片付けろ!」
焦るモースの声に、神託の盾兵士がバラバラと駆けつける。
「アリエッタ、やめなさい!」
「返して!アリエッタのイオン様を、返してえぇぇぇっ!!!」
憎しみと絶望に燃え上がる彼女の瞳から、大粒の涙が溢れ出す。
それを合図にするかのように、魔物達が一斉にモースへと飛び掛った。
「モース様をお守りしなさい!」
リグレットの指示に、兵士たちは剣を振るう。
しかしその切っ先が躊躇無く向けられるのはやはり魔物達であり、まだ年端も行かない少女であるアリエッタを切り捨てるのは躊躇われるようだった。
「行くよ、ディスト」
いきなり横から聞こえた冷静な響きに、ディストは驚いて目を点にする。
そこには、いつの間にか手錠を外したシンクの姿があった。
「シンク!?あなた手錠を…」
兵士たちは魔物に気を取られていて、二人の様子にはまだ気づいていない。
「あれくらい抜けられて当然でしょ?」
「むぐぐぐ…は、早く私のも外しなさい!」
「自分で何とかしたら?」
「なっ…」
やり取りの間にも、魔物が現れては切り倒されていく。
「ほら、ボヤボヤしてる暇はなさそうだよ…」
小さな針金のようなものをシンクが投げた。
「え、ええい、もう!」
器用にそれを後ろ手で受け取って、ディストは慌てて手錠を外す。
「ぐわぁぁあっ!?ひいっ、い、痛いっ!」
一際派手な悲鳴が上がった。
モースの腕を、魔物の一匹が噛み裂いたのだ。
「モース様!チッ…閣下もラルゴもいないこんな時に…」
リグレットが腰に挿した銃に手をかける。
「アリエッタ!」
ディストは思わず叫んでいた。





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