promised tune
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「まったく…あなたがシンクだと知っていればこんなことにはならなかったものを!」 後ろ手にかけられた手錠をがちゃがちゃと振りながら、ディストが悪態をつく。 陸艦から引きずり出された二人が連れてこられたのは、ダアトだった。 「気づかないディストもどうかと思うけどね。研究者だろ?」 「むっ…そうは言いますけどね、他人の関わったレプリカのデータなんてなかなか取れないから貴重なのであって…」 「うるさいよ、ちょっと黙っててくれない?」 「むぐぐぐ…!」 神託の盾兵士に挟まれるようにして、ダアトを囲む塀の上の道を歩く。 嫌味なほど晴れた空に、太陽が眩しい。 先導していくのは、ライガを連れたアリエッタだ。 「嫌なほうへ近づいていきますねぇ…」 ディストの溜息。 扉の先の階段を下りれば牢、上がれば神託の盾のなかで最奥の会議室へと繋がる。 どちらにしろこの街でもっとも警備の厳重な区間へと、二人は連行されようとしていた。 ふと、兵士たちの足が止まる。 顔を上げると、前からやってきたのは二人を捕らえたリグレットと、その横には大詠師モース。 モースは二人の前で足を止め、不機嫌そうに怒鳴った。 「言え!導師イオンをどこへ隠した!」 「モース様、取調べは後ほど行います。ここでは大きな声を出されませぬよう」 リグレットの忠告を振り払うように、まるで子供が駄々をこねるような仕草でモースは地団太を踏む。 「ええい、いいからさっさと言うのだ!」 「…そんなことを言われましてもね。私だって知りたいぐらいですよ」 「知らないね。聞いても時間の無駄だよ。…ボクがあんなヤツを庇い立てするはずがないだろ」 二人の返事に、ますます顔を赤くしてモースは拳を振り上げる。 「チッ…この役立たずどもがっ!あの人形も人形だ!手を焼かせるのにも程がある!」 「…!」 その言葉にきっと眉を吊り上げたのは、それまでだまってぬいぐるみを抱いていたアリエッタだった。 「違います!イオン様は人形なんかじゃないもん!」 「アリエッタ、モース様に失礼でしょう。言葉を控えなさい」 「でも…!」 そんなアリエッタの様子を嘲笑うかのように、モースは言葉を吐き捨てる。 「ふん、人形を人形といって何が悪い!あのような出来損ないでさえ導師と呼んで大事にしてやっていたものを…恩を仇で返しよって」 「どうして…」 ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめて、アリエッタが震える。 横に寄り添っていたライガが彼女を守るかのように姿勢を低くし、背中の毛を逆立てた。 「なんだかまずい雰囲気ですね…しかしこれは逃げ出すチャンスなのでは?」 囁くディストにも、シンクは反応を返さない。 「ちょっと、聞いてるんですか、シンク!」 「……」 その瞳はひどく冷たい輝きを湛えたまま、じっとモースを見ていた。 「モース様!彼らには私から質します。今日のところはどうかお引取りを」 厳しい声で迫るリグレットの気迫に押されてか、モースは一歩後ろへ下がる。 しかしどこまでも虚勢を捨てられない男は、その時最も言ってはならない言葉を口にしたのだった。 「ふん…本物の導師イオンが生きていれば、こんな茶番は無かったのだ。まったく!」 「!?」 「!…モース様!」 リグレットの声を遠くに感じながら、アリエッタは頭の中でその言葉を繰り返した。 何度考えても、理解できない。 ぱさり、と足元にぬいぐるみを取り落としたのにも気がつかず、アリエッタはその場に立ち尽くした。 「どういう…こと・・・?」 ―――本物?生きていれば? その瞼の裏に過ぎるのは、イオンという言葉によって蘇る、彼女のもっとも大切な人の記憶。 |