promised tune




何度、繰り返させる気なのか。
ヴァン・グランツ―――あるいはヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ―――としての生を送り、死したと感じた次の瞬間、擬似超振動が引き起こされたあの時間に引き戻される。
何度も何度も、目の前で大切なものが崩れていく。いや、自分の身から発せられた力によって崩されていく。
暗闇へ消えていく瓦礫、無力にも魔界へと吸い込まれていく街。
千切れた人の身体が舞い、恐怖の叫びが崩落の轟音に消える。
そう、地獄だ。
最初は、突然飲み込まれた暗闇に抗うように、ただ必死で譜歌を歌っていた。
二度目は、困惑の中気づけば譜歌を歌っていた。
三度目は、自分が時の中を繰り返し生きていると半ば確信した、新たな絶望の中譜歌を歌った。
…幾度目のことだったろう。
その地獄の暗闇に、母の姿を見つけたのは。
咄嗟に、手を伸ばした。
自分だけしか助からないはずだったその地獄の中で、初めて誰かのために譜歌を歌った。
巡る時の中、どれだけ足掻いても逃れられないユリアの予言という鎖に憎しみを覚えながら、それでも歌うことを選んだ。
本当は死んでいたはずの母と、その腹に宿っていたもうひとつの命のために。
足掻いても足掻いても世界は破滅へと向かい、またあの地獄へと引き戻される。
それでもまた気づけば手を伸ばし、譜歌を歌っている自分がいる。

――――兄さんは間違っているわ!

そうかもしれないな、メシュティアリカ。
子守唄のように、半ば無意識に歌い聞かせた譜歌を、お前はいつの間にか覚えていった。
繰り返す絶望の中で、どれだけのものを救おうとしただろう。
どれだけのものを打ち倒そうとしただろう。
ローレライが私に望んだのはその解放だったと知っている。
結局私にそれを果たすことはできなかった。
いや、気づいてしまったのだ。
世界を解放するということは、ローレライを解き放つこととは違うのだということに。


――――どうしてこんなことを…?


何故、と問うことすらもう無意味なのだよ。
この世界そのものが歪んでいるのだ。
全てを打ち壊し、新しく作り変える。
そう、もはや不要なものしかないのだ。この地上には。
お前も。そして私も…か?
…では何故、また私は手を伸ばしたのだろう。
矛盾に気づきながらも、それでもまた繰り返す。
生まれ変わった世界をお前に見せたいのか。
いや、それすらもまた矛盾…


――――私を解放してくれ―――


ヴァンは目を開ける。
窓に切り取られた空は、いつか見たような雲ひとつ無い青。
身体の内側で、取り込んだローレライのかすかな抵抗。それを自嘲にも似た笑みで押し殺す。
背後の扉の前に気配を感じて、ヴァンはぴくりと眉を上げた。
「探したぜ」
蝶番の軋む音と共に、低い声が響く。
「貴公か…それはこちらの台詞ですな。急に飛び出したと聞いて心配しておりましたよ」
「お前に聞きたいことがある。…山ほどな」
感情を押し殺した声の主のほうへ、ゆっくりとヴァンは振り返る。
そこに立っていたのは予想通り、ガイだった。
「・・・顔色が悪いようです、焦らずとも、ご質問にはゆっくりお答えしましょう」
「ふざけるな!お前はそうやっていつもはぐらかす…!」
やれやれ、と肩をすくめて、ヴァンは首を傾げる。
「もう逃げも隠れもしませんので、ご安心下さい」
「ガイラルディア様、応接室をご用意いたしました。こちらへどうぞ」
ガイの後ろからかけられた声。
ヴァンに倣って恭しく、リグレットが頭を下げる。
まだ不振そうに眉を寄せながら、それでもガイはその後について身を翻した。
再び静寂の訪れた部屋。
ゆっくりと手を伸ばし、ヴァンは目の前に置かれたチェス盤の駒をカタリと動かした。
チェックメイト。
窓から差し込む光の中で、僅かに口元を歪める。
「さあ…私の前に座すのは誰になるのだろうな」





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