promised tune




ひどく寒い部屋に押し込められていた。
身体を縛る鎖はどんなにもがいても外れない。
頭に、肩に、胸に、いくつもの端子が吸い付いている。
目隠しの隙間から辛うじて見ることのできる世界には、椅子に繋がれた自分の手足。
腕に差し込まれた針から流れ込む、薄青色の液体。
耳障りな機動音が部屋を取り囲んで、全ての機材を小さく振動させている。
遠くで響く怒号。兵士たちの鎧の軋む音。
先ほどまで走り回っていた研究者たちの気配もどこかへ消えてしまった。
突然戦乱の訪れたこの街に、誰もが慌しく出立の準備をしていたらしいというのは感じていたのに。
おびただしい資料も、機材も、この部屋には置いたまま誰も手をつけようとしなかった。
ただいつもより念入りに、自分にこのいくつもの機材を接続して…
流し込まれる薬のせいだろうか、ひどく気分が悪い。
ぼんやりと訪れる終末の予感。
このまま死ぬことが出来るのなら、それでも構わないと思った。
気絶しようと、吐こうと、泣き叫ぼうと、繰り返される過酷な実験≠フ度に願ってきたこと。
これ以上の地獄などありえないと、ただこの身体が、心が、不可逆的に壊れてしまう日を待ち望んだ。
できるなら苦しむ自分の様子を冷淡にカルテに書き込み続ける研究者たちの望む結果など、出なければいい。
そう思っていたのに…
「…!?」
一際大きく譜業機械が唸りを上げる。
今までにないほど強い悪寒が背筋を走った。
ドクン、と身体の奥から突き上げる力を感じ、反射的に唇を噛む。
しかしそんなささやかな抵抗など簡単に打ち壊し、それは解き放たれてしまった。
擬似超振動―――マルクトの実験によって無理やりに引き起こされた、第七音素の暴走。
「あ…あああああああ!」
世界が歪む。
がくがくと揺れる身体から解き放たれる力が、椅子ごと鎖を破壊する。
放射状に広がる振動が全てを揺らしていく。粉々に砕くほど、強く。
目隠しがはじけ飛んだその後に、瞳に映った世界は広い広い青空。
壁も、建物も、街も、全てが崩れていくその上に、無常に広がる澄んだ晴天。
一瞬の、時が止まったかのような静寂。
そして次の瞬間、聞き取ることの出来ないほどの轟音が街を―――街だったものを包み、大地は魔界へと崩れ落ちていった。
枯葉のように舞うのは、岩だろうか、人だろうか。
「うわあああああああああっ!!」
絶望の叫びがまた衝撃波となって、地を引き裂く。
それが、ホドの終わりだった。




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