promised tune




「初めまして、皆様。このアルビオール、パイロットのノエルと申します」
「は…初めまして。わたくしはナタリア。この度は危ないところを救って頂き、感謝していますわ」
「ティアと申します」
「アニス・タトリンです」
「ジェイド・カーティスと申します。あなたは…シェリダンの方ですね?」
「はい!ではあなたがタルタロスの…おかげでこのアルビオールの完成が早くなったと、祖父がお礼を言っておりました」
ぺこり、と頭を下げるノエルに、壁にもたれかかっていたアッシュが溜息をついた。
「そろそろいいか。時間はいくらあっても足りないんだ」
「はい!アッシュさん…その節は、兄がお世話になりました」
「おや、何の話です?」
「話は後だと言ってるだろうが!」
ぷい、と横を向いたアッシュに、ジェイドはひそかに笑みをこぼす。
このぶっきらぼうな言動は、ただの仮面であることに誰もが気づいていた。
その下にあるのは、誰かを、他人を思いやるだけの優しさと包容力を持った本当の姿。
それはきっとルークとよく似ている、と。
「おやおや、あなたはそればかりですねぇ」
「大佐に言われたくないと思うなぁ…」
「ん?アニス、何か言いましたか?」
「いーえー?何もー。あははは…」
「はっはっは…」
ようやく軽口を叩くだけの余裕が出てきた一行だったが、ナタリアの一言にまた窓の外へと視線を向ける。
「不思議ですわね…こんな世界が、今まで生きてきた足元にあっただなんて…」
「仕方ないわ。魔界の存在は…神託の盾内部でもほとんど知られていないのだもの」
「ティア、あなたは知っていたのですか?ルークが最初に魔界のことを口にした際も、それほど驚いてはいないようでしたが」
ジェイドの問いに、ティアはゆっくりと頷く。
「私は…ここの出身です」
「えええっ、じゃぁ、総長も…?」
「そうでしたの…」
「ふわぁ…なんか、びっくりって言うか、納得って言うか…」
『アルビオール、発進準備が出来ました!』
伝声管からノエルの声が響く。
『どこへ向かったらよろしいですか?』
辺りを見渡すと、一同に声をかけた。
「この魔界には、ユリアシティという街があるんです。多分ここからだと…西のほうになるかしら…まずはそこを目指すべきだと思います」
「あの…わたくしお願いがあります」
「どうしました、ナタリア」
「この周囲に、他に生き残っている人々がいるかもしれません。先程の様子では、望みは薄いのかもしれませんけれど…キムラスカの王女として、このまま何もせず見捨てるわけにはいかないと思うのです」
「…そうね。私たちはほぼアクゼリュスの中心にいたから…もし他に同じような人がいるのだとしたら、そう広い範囲ではないはずだわ」
「ノエル、可能か?」
『はい!では最低速で、周囲を巡回します。すみませんが皆さんで窓の外を確認していただけますか?』
「わかった」
エンジンの低い唸り声と共に、アルビオールは滑り出す。
「アクゼリュスの人たちは…どうなってしまったのかしら」
注意深く窓の外を見渡しながら、ティアが呟く。
「もし他の坑道の奥にいたのだとしたら…」
同じように、崩落に巻き込まれているかもしれない。
ナタリアは言葉の続きを飲み込み、代わりにいっそう真剣に泥の海を見つめる。
「魔物に襲われた人もいるんでしょ?攫われてった人もいるって。それでも…助かってるとは思えないけど…」
トクナガを膝の上に乗せたアニスの言葉に、ジェイドが頷く。
「さてアッシュ、そろそろ…後回しにしてきた説明をするべきときなのではないですか?」
「どういうことですの?」
促すような沈黙の後、アッシュは背を向けたまま答えた。
「全員助かったとは思わないがな…少なくとも魔物に攫われた≠ヤんに関しては生き残ってるだろう」
「え?」
「アッシュ…何かご存知なのですか?」
「俺がやった」
アッシュの言葉に思わず全員が振り向く。ジェイドだけが驚きではなく、納得の表情を浮かべて。
「何ですって?」
「じゃ、じゃぁアクゼリュスの人たちを攫った魔物って…アッシュのこと?」
「アニス、アッシュが魔物だと言っているわけではありませんよ」
アッシュは肩をすくめると、淡々と言葉を紡ぐ。
「正確には俺の手配した魔物、だ。もちろんただでさえ瘴気を吸って弱っていたやつが多いだろうからな。命がどうなったかまでは保障はない」
「…いつの間に?」
「そんな大切なことを…もっと早く教えてくださっていれば、あれほど大勢の兵士たちを派遣することもありませんでしたのに…」
そして、命を落とすこともなかっただろうに、とナタリアの言葉には僅かな非難がこもる。
ヴァンの剣の前に死体となって積み重なったキムラスカの兵士たち。
あの血の海は、まだ脳裏に焼きついている。
「仕方ないだろう。動き出したのはお前たちと出会う前のことだ」
「ナタリア、親善大使とキムラスカ兵士の派遣はアッシュの動きに関わらず、起こったことだと思いますよ」
苦笑したジェイドを、ナタリアは納得のいかない表情で見た。





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