promised tune
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「あれは?」 「ティアさんに似てますの」 ミュウが首を傾げる。名指しされたティアは、慌てたように自分の姿を見下ろした。 「そ、そうかしら…でもどこかで、見たことがあるような…」 「あたしもあたしも!でも…どこで見たんだろう」 それは髪の長い女性。確かにその髪の色は、ティアとよく似ている。 驚きの表情を浮かべたルークがまた、何事かを呟く。 自然と、一同の視線がアッシュに集まった。 「ユリア、だそうだ…」 アッシュが憮然とした表情のまま、自分だけに聞こえているらしいルークの言葉を繰り返す。 「!?」 「この方が…始祖ユリア?」 「うっそぉー!?」 「まさか…」 皆、それ以上の言葉が続かない。 ローレライ教団の始祖であるユリア・ジュエが生きていたのは、今から二千年も前のことである。 その姿が今ルークと一緒にあるのだ。 「そっか、ダアトで見た絵と似てたんだ…じゃああれはやっぱり、本物?」 アニスの言葉に、ティアも頷く。 ローレライ教団の本部、ダアトには大きなユリアの肖像画がかけられている。 確かにその姿は同じ人物のように見えた。 「ユリアは…何と言っているの?」 ティアがアッシュに問う。 「聞こえんな」 しかし返ってきたのはそっけない一言。 一行の目の前に映るのはただその動きのみで、ルークもユリアも何かを話しているように見えたが、声を聞くことは出来ない。 アッシュにも聞こえてくるのはルークの呟きのみだった。聞こえないよりも、もっともどかしい。 「チッ…まともな情報をよこしやがれ…」 結局ルークの言葉から理解することが出来たのは、ルークもまたユリアと直接相対しているわけではなく、過去の映像を見せられているだけに過ぎないということ。 そしてユリアはローレライとの契約について述べているらしいということのみだった。 せめてその表情から何かを読み取ろうと、皆食い入るようにそれを眺める。 しかしもとより霧に映った不安定な姿。収穫はなく、アッシュの右目の光が薄れると同時にルークやユリアの姿もまた消えてしまった。 後に残ったのは、紫色の瘴気の霧のみである。 「あの馬鹿…何してやがる」 アッシュがぽつりと口にした言葉に、ティアがはっと顔を上げた。 「ルーク…無事なのかしら」 「生きてはいるようですね。あとは…私たちも無事にここを出ることを考えなければ」 「はいですの!絶対、ご主人様は無事ですの!」 「っ…」 がくん、とアッシュが膝をつく。 想像以上に体力の消耗が激しかった。疲労感に、体中が悲鳴を上げる。 「アッシュ!」 「大丈夫ですか?」 駆け寄るナタリアの後ろで、大きな影が動く。 元は何かの建物の一部であったらしい塊が、ごぽっという気味の悪い音と共に飲み込まれていった。 「俺のことはいい…これ以上ゆっくりしている暇は無さそうだ」 その言葉にジェイドも頷く。 「そうですね。あちこちから沈み始めています。この岩場もそう長くは持たないでしょう」 「さすがにこの泥の海では、譜歌で結界を張っても役には立たないわ…」 「大佐ぁ、どうしたらいいんですかぁ?」 トクナガを抱きしめてアニスが悲鳴を上げる。 その足元にもひび割れが迫っていた。 「…待ってください。あれは…?」 空を、大きな影が横切った。 鳥などとは比べ物にならないほど巨大な翼。それは世界唯一といっていい、飛行が可能な音機関だった。 「何あれ…音機関って…飛んだり出来たの?」 「でも様子がおかしいわ。飛んでいるというより…」 それはゆっくりと旋回しながらアッシュたちの方へと近づいてきた。 確かにティアの言うとおり、飛んでいるというよりは、ゆっくり落ちているといったほうがいいかもしれない。 巨大な鉄の翼は滑空しながら高度を下げ続ける。やがて泥の海へその胴体が着地した。 波しぶきの代わりに、大きな泥の塊が周囲に飛び散る。 「危なっ!」 アニスがバランスを崩して尻餅をつく。 着地の衝撃で、足元の岩場が更にひび割れていった。 すぐ近くに来たその機体を眺めて、ジェイドが腕を組む。 「これは…この部品は、タルタロスの?なるほど…それであなたはタルタロスをシェリダンに向かわせろと言ったのですね」 「大佐?」 「いえまあ、説明は後です。それよりも、足場がこれ以上悪くなる前に乗り込みましょう」 「大丈夫なのですか?」 「今は他に選択肢が無さそうだわ」 「そうだよね、とにかく急がないと、もうそこまで沈んでるよぉ!」 近づくと、シュンと軽い音と共に扉が開く。 アッシュが躊躇せず乗り込むと、ナタリア、ティア、ミュウ、アニス、ジェイドの順で次々と乗り込んでいく。 そして扉が閉まったことを確認したかのように、これまで一行が足場としていた岩場、アクゼリュスから崩落した瓦礫の塊が、ゆっくりと泥の海へと沈んでいった。 「すごい…こんな精密な音機関を見たのは初めてだわ」 ティアが目を見開く。 その時向かいの扉が開き、中からティアたちと変わらない年恰好の女性が顔を出した。 |