promised tune




一方、崩落に巻き込まれたアッシュたちは魔界へと辿り着こうとしていた。
辺りを照らしていた金色の光が、アッシュの右目へ収束していく。
それと同時に、アッシュの喉から響いていたはずの譜歌が異なる声へと変化していった。
「どういう…ことだ?」
アッシュたちを包んでいるのはティアの歌う部分的な譜歌と、聞き覚えのない声で響く大譜歌。
辺りは闇と、漂う薄紫の霧。
足元にぼんやりと光るのは、不気味な色を湛える水面だった。
粘度の高いその水面に、崩落した大地の破片があちこちにまだ浮いていた。
一行の足先がその大地の欠片に触れた瞬間、譜歌が止む。
ティアが作り出した結界の中で、誰ともなく深い溜息をついた。
「ホントに…こんなことになるなんて思わなかったよぉ」
「ルークが焦っていた訳が今更のようにわかりましたね。どうやら私もまだ…危機感が足りなかったようだ」
地底に広がる海。いや、もともとこの場所こそが星の表面であったのだ。
まるで海のように見えているその実態は、ドロドロに液状化した大地の表面が波打って水面のように見えているだけ。
そしてその上を覆う霧は、目に見えるほど濃い瘴気だ。
アクゼリュスを覆っていたものよりも、何倍も濃度の高いその瘴気に誰もが息苦しさを感じる。
「わたくしたちの他に生存者はいないのでしょうか」
ナタリアの声は僅かに震えている。
「あの高さからでは…どうでしょうね」
「探してみましょう」
ごつごつと隆起した岩場の上を歩き、辺りを見渡す。
「…っ!」
しかし見つけることが出来たのは、いくつかの死体―――多くは落下の衝撃でほとんど形を留めていないようなものばかりだった。
服装から、かろうじてそれがキムラスカの兵士だとわかる。
「もっと…ルークの言葉を真剣に受け止めていたなら…せめてアクゼリュスの住人たちが見つからなかった時点で引き上げさせるべきでしたのに」
ナタリアが唇を噛みしめた。
「後悔や懺悔は後でも出来ます。今は私たちに出来る限りのことをしましょう」
ジェイドの声もいつもより低く、苦しげに響く。
互いの顔がようやく見える程度の明かりに浮かび上がるのは、不安そうな、あるいは深刻な表情ばかり。
その時、金色に変わったアッシュの右目が、一瞬輝きを増す。
それに照らし出されるように、暗い霧の中にに浮かび上がったのはルークの姿だった。
「!」
「ルーク!」
「くっ…」
アッシュが額に汗を滲ませる。光を湛えた右目が、焼けるように熱い。

…聖なる焔の光=c

一瞬、頭の中でローレライの声がした。
それはとても遠く、小さな響きでルークを呼んでいた。
「ローレライ…俺たちに何を見せたい?」
「アッシュさんの目、ご主人様と同じですの…」
ミュウが呟く。何かに怯えるように後ろへ隠れるミュウを、ティアがそっと抱き上げた。
「ねえ…アッシュって本当に人間…?」
唇をへの字に曲げるアニスに、ナタリアが非難の視線を向ける。
「アニス!失礼ですわ」
「でもさ、これって…」
誰もが言葉を失う。
霧に歪む映像の中、ルークが不安げに顔を上げた。
どこにいるのだろう。
魔界とは違う、どこか遺跡の中にでもいるような雰囲気である。
「これは…今ルークに起こっていることなのですか?」
「さあな…ローレライのヤツが何か企んでいるのは確からしいが」
ジェイドがルークの姿が映る霧の方へと手を伸ばす。
しかし、その指先はあっさりとルークの身体を通り抜けた。
揺らぐ霧に、映ったルークの姿もまたゆらゆらと頼りなく揺れる。
「まるで音機関ですね…」
ジェイドが肩をすくめる。
娯楽のために映像を映し出す機関のように、今ここにない景色が目の前で展開していく。
「ルーク!聞こえますか?」
「ご主人様!ミュウはここですの!」
ナタリアたちの問いかけも、届いている様子は無い。
ルークは相変わらず辺りをきょろきょろと見渡していた。
そして何事かを呟いて、ハッと顔を上げる。
「・・・!エルドラント、だと…?」
ルークの口が動くのと同時に、アッシュが呻くように呟く。
「…?アッシュには何か聞こえているの?」
ティアの問いに、小さな舌打ち。
「俺だけ…か?あの馬鹿の声が聞こえてるのは」
「エルドラントとは?」
「今は説明している暇が無い」
アッシュはルークから目を離さずにそう言うと、大きく息をついた。
このルークの姿がアッシュの右目に宿る光によって映し出されていることを考えると、迂闊に瞬きも出来ない。
何かを考えている余裕などなかった。
「ねえねえ、ルークの見ている方向に、誰かいるように見えるんだけど…」
アニスが気味悪そうに呟く。
ルークの前にある大きな石碑。それは墓標のようにも見える。
その向こうに、確かに人影があった。





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