promised tune
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―――深淵と天を繋ぐもの この星の記憶紡ぐところ 祈りよ形を成せ 残されし第七の座に旋律を――― 歌が聞こえる。 そこは石造りの壁に囲まれた地下室のような場所だった。 どこかで、見たことがある。 この白い柱、そして部屋の中央に立てられた墓標。その周囲に石畳を割るように生えた草花。 「ここは…」 ひやりとした空気がルークを包む。 「…エルドラント?」 かつて魔界へと崩落し、その姿を失った街、ホド。 ヴァンがフォミクリーの力を用いてそれを復元したのが栄光の大地=A空に浮かぶ都市エルドラントだった。 この部屋もそこにあったもの。ホドで生を終えた、ユリアの墓標。 いまはもう、あるいはまだ…存在しないはずの場所だった。 ―――永久に結ばれし黄金の鎖よ 時を超え我が前に力を示し 彼方なる光を此処に留め置かん――― 大譜歌と同じ旋律。 しかしそこにはルークの聞いたことのない言葉が乗せられていた。 「……!」 墓標の向こう側。 ティアと出会ったタタル渓谷の白い花に似た花が揺れる。 優しげな微笑を浮かべ、この歌を歌っているのは… 《なぜかしら…》 「ユリア…?」 すぐ近くに居るルークに気がつかないかのように、彼女は小さく呟く。 《この星の記憶は全ての生命の導、それなのに誰もがそれを自分だけのものにしたがっている》 「あの、俺…」 ルークが声をかけたが、返ってくる言葉はない。 しばしの沈黙の後、小さな溜息が聞こえた。 《すべてはこの星から生を受け、また星へと還る運命…それなのに》 そう言って立ち上がったユリアがルークの傍を通り抜ける。 しかし、その瞳にルークは映らない。 「・・・俺が見えてない…?」 そのまま数歩進んだ彼女は、ふっと墓石をすり抜けた。 「えっ…?」 絶句したルークが回り込むと、そこには何事もなかったかのように立っているユリアの姿がある。 《争いは続く。人は武器を取る。この星を傷つけ、自らの足元を毒に侵してまで…》 とても悲しそうに、そして僅かに苛立ったような仕草で、ユリアは高い天井を見上げる。 その目には何が見えているのだろう。 その耳には何が聞こえているのだろう。 視線を追ったルークは、ふと眼帯を外してみた。そして、その左目に映った景色に息を飲む。 キラキラと瞬く光の乱舞。 力ある第七音素の集合体。 そこには確かに…ローレライの気配があった。 「ローレライ!師匠に取り込まれたんじゃなかったのか…なあ、聞こえるか?」 それは手が届くほど近いようで、しかしとても遠いところに向かって問いかけているような感覚だった。 《この世界はいつか滅びる。それはこの星もまた生命のひと欠片である以上、定められたこと》 二人は今自分と同じ場所にいるわけではないのだろうと、ぼんやりと理解する。 恐らくは…先程の譜歌の中で見たものと同じ、過去の一部。 それでもその姿があまりにもはっきりと、現実味を持って見えているために、ルークは呼びかければ声が届くのではないかと思ってしまう。 《それでも人がそれを知りたいと望むのなら…それなら私は全てを言葉にしましょう。その滅びへの導を》 思い切ってユリアの肩に触ってみようかと手を伸ばしたルークだったが、彼女の言葉に含まれた冷たい響きに思わず身をすくめる。 ユリアは背筋を伸ばし、真っ直ぐにローレライを見ていた。 いや、睨んでいたというほうが正しいだろうか。 《怖いのかしら?そうね、それはあなたがこの星に囚われたまま、共に滅びることを指しているのだもの》 ユリアの指がゆっくりと円を描く。それはまるで星を巡る、プラネットストームの流れのように。 創世暦時代の科学者により提唱されたとも、ユリアがローレライの鍵を用いて発生させたとも言われている、音素を世界中に巡らせる巨大な流れ。 ルークは黄金の鎖に縛り付けられた、ローレライの姿を思い出す。 「ユリアが…ローレライをこの星に縛り付けた?」 その鎖に絡め取られて、ローレライはいまだ、地核から、そしてプラネットストームを巡る音素の循環から抜け出せないでいる。 《でも逃げることは許さない。あなたは、この星は…私を産んだのだから。私にこの声を与えたのだから》 ローレライがユリアに声を与えた。 そんな話は今まで聞いたことがない。ルークは首を傾げる。 祈りの形に指を組んで、ユリアは息を深く吸い込んだ。 《…共に踊り続けましょう。滅びを迎えるその日まで…》 ユリアの唇から零れる美しい旋律。 その譜歌がローレライとの契約のためのものだということは知っていた。 けれどこれまで、その契約がどんなものかを考えたことはなかった。 ユリアの譜歌の意味することとは、何なのだろう… |