promised tune




…トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ…
強烈な光の渦の中で、ルークは歌っていた。
自分の肩を掴もうとする魔物を振り払い、崩壊の闇の中へと落ちる、と思った瞬間。
金色の光がルークを包み込んでいた。
…クロア リュオ ズェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ズェ…
身体の奥から湧き上がる力が、旋律となって喉を通り抜ける。
ティアが歌うのを聞いたことはあったが、覚えようと思ったことはない。
今も、歌おうと思っているわけではない。
それがなぜ自分の口から出てくるのか、ルークには不思議だった。
ふと耳を澄ます。
自分の歌声に重なるように、よく似たもうひとつの声。
遠いような近いような、どこから聞こえてくるのかもわからないそれは、確かにアッシュの声のように思えた。
落ちていく速度はあっという間に遅くなり、何かに守られるようにふわりと身体が浮きあがる。
…ヴァ レィ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リュオ トゥエ クロア…
辺りは眩しすぎて、何も見えない。
瞼を閉じると、一粒の涙がルークの瞳から零れた。
また、アクゼリュスを守れなかった。
それは自分の力によって崩壊させてしまったと知った時の、あの絶望感とはまた違う後悔。
知っていたのに、手を伸ばしたのに、届かなかった。
星の記憶、ユリアの示した預言の前に、やはり自分は無力なのだろうか。
…聞こえるか?
ギィン!と耳鳴りがしたかと思うと、かすかにアッシュの声が頭の中に届く。
ハッと目を開ける。
おい!聞こえてるなら何か言え、ルーク!
応えようとした瞬間に、がくんと身体が引っ張り上げられるのを感じた。
急に辺りが暗くなる。
「アッシュ!…アッシュ?」
叫んでみても、もう返ってくる言葉はない。
それまでルークを包んでいた目が痛いばかりの光は足元に遠ざかり、ルークの身体は痛いほどの力でどこかに吸い寄せられていく。

…聖なる焔の光=c

その中に、ローレライの声がした。
…リュオ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ ズェ レィ…
先ほどとは逆に、自分の指先すら見えないほどの暗闇の中で譜歌は続く。

私もまた、この理の中でしかお前を守ることは出来ぬのだ…

…ヴァ ネゥ ヴァ レィ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レィ…

―――ユリアよ…愛しき娘、あまりにも強く生まれし人の子よ…

ローレライの声は苦しげに揺れる。
ルークは、自分の声で響くその歌が、自分以外の者の力によって歌われていることにようやく気づいた。
それはユリアの譜歌という、特別なものだったのだから。
旋律をただ歌うだけでは駄目なのだ、とティアに教わったことを思い出す。
ユリアの譜歌はその意味を知り、理解していなければ力を持たないものだと。
正しく扱えば、一つ一つの旋律ですら、譜術に匹敵する力を持つ。
そして全を結んだときそれは、ユリアがローレライとの契約を交わした大譜歌≠ニ呼ばれる更に強大な力となるのだと……
ユリアの血を引き、第七音素譜術士として長年の修行を積んだティアであっても、まだそのすべてを理解できているわけではないという。
では今、この歌を扱うことが出来るのは…?
「!」
遥か先に見える明かり。
ルークの身体はゆっくりとそちらへ近づいているようだった。
自分が来た方を振り向こうとするものの、どういうわけか身体の自由が利かない。
ただ明かりのほうを見つめていると、やがてその形が徐々に見えてきた。
「あれは…」
人の形を取る金色の炎。そして、それに手を伸ばす少女。
それはいつか夢の中で見た場面に似た、ローレライとユリアの姿だった。
…クロア リュオ クロア ネゥ トゥエ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ…
二人の唇が同時に動き、譜歌の旋律を紡ぐ。
それはもう自分とアッシュの声ではなく、ローレライとユリアの声で響いていた。
ローレライのほうへそっと手を伸ばすユリア。
…レィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ…
彼女が触れた瞬間、光がはじけ飛ぶ。
一瞬歪んだローレライの姿が、引き裂かれるように二つに分かれるのが見えた。
それは光と影のように眩しい人影と仄暗い影をそれぞれ形作る。
激しい風が沸き起こり、ユリアの髪を揺らす。
それでも彼女は口元に微笑を浮かべたまま、手を伸ばし続ける。
その指先に生まれた輝き。
黄金の鎖がふわりとローレライに向かっていく。
二つのローレライはそれぞれ輝く鎖に絡め取られ、ひざまずくようにユリアの足元に伏した。
ユリアがゆっくりと振り向く。
ルークのほうをじっと見て、彼女は僅かに首をかしげた。
すっとその腕を挙げ、指先をルークに向ける。
いつの間にかその指先に触れるほど近くに引き付けられていたルークは、慌てて身を捩ろうとする。
しかし相変わらず身体はピクリとも動かず、スローモーションのようにユリアに向かっていく。
「うわっ…!」
その指先に触れると思った瞬間、ルークの目の前の景色がぐにゃりと歪んだ。




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