promised tune
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砕ける波の音だけが響く岸壁。 ガイは迷わず船縁を蹴り、宙に身を躍らせた。 「おいあんた、そんな無茶な…!」 しぶきに濡れる岩場に飛び降り、足を滑らせながらも崖をよじ登る。 「悪かったな、俺には構わず戻ってくれ!」 振り向いてそう叫ぶと、ガイの姿は崖の上に消える。 キムラスカ兵によって封鎖されていたカイツールの港に入ることをあきらめ、無理やり船を接岸させたのだ。 『あ…アクゼリュスでマルクト軍の攻撃があったらしいんだよ!だからあそこは今誰も近づけねえんだ!』 ガイに剣を突きつけられながら舵を握る船長が、悲鳴のように叫んだ言葉。 ―――そんなはずはない! 和平交渉を、と自分が捕らえられかねない危険を犯してまでキムラスカへやってきたジェイド。 彼の持つ親書は本物だった。 ローレライ教団内部での対立もあるらしいとはいえ、導師であるイオンもその和平交渉に加わってきている。 そんな状況で、果たしてマルクトがキムラスカに攻撃を仕掛けるだろうか? 「くそっ…もっと早く気がついていれば…!」 走る、走る、走る。 まだ思うように動かない身体に舌打ちをしながら、ただひたすらに足を前に進める。 不気味なのは、辺りに魔物の気配がないことだ。 焦る気持ちとは裏腹に、時間は過ぎていく。 太陽が傾き、空が茜色に染まる頃、ガイはようやくデオ峠に差し掛かかった。 「…!!」 足を引きずりながら坂を上りきったところで、ガイは言葉を失くして立ち尽くす。 カラン、と握っていた剣を取り落とす。 静かな夕暮れにその音はひどく虚ろに響いた。 「なんで…何が…あったんだ…?」 自分の耳に届く声は乾ききり、震えている。 いくつもの炭鉱が螺旋状に掘り下げられたアクゼリュスの街はなく、眼下に広がるのはただ黒々と口を開いた奈落。 小さな地響きが聞こえた。木を、草を巻き込んで、大地の縁がその闇へとバラバラと崩れ落ちる。 「う…わあああぁぁっ!」 掠れた悲鳴が喉から漏れる。 目の前の景色は、忘れようと思っても忘れられない、故郷の最期とあまりにも似ていたのだ。 「また…?」 ガイは思わずその場にしゃがみこむ。 かつて、大切なものを失った。 ガイがうまれた街、ホド。 今はもうこの地上にないその街が滅んだ時も、同じように全てが奈落へと消えていった。 「マルクト、なのか?本当に…」 震えが止まらない。 ルークも、ヴァンも、ここにいたのだろうか。 また…全てを失ったのか? ハッと顔を上げる。徐々に暮れていく景色の中に、生き残った者は見えないだろうかと、ガイは必死で目を凝らす。 「…無事で、いるんだよな…?ルーク…」 呟きに返る言葉はない。 辺りに生命の気配はなく、魔物の姿すら今は見つけることが出来なかった。 |