promised tune
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その町は、紫色の霧に沈んでいた。 元々鉱山が発見された場所に、鉱夫たちが定住するようになって出来上がった町である。 鉱山といっても山ではない。地中をモグラのように掘り進むことになる。 徐々に深くなる鉱石の採掘に合わせ、町並はすり鉢状に中央が深くなる形だった。 その最上部にある町の入り口でさえ目に見えるほどの瘴気に覆われているのだ。 ふと見下ろすと、すり鉢の中央は霞んで底が見えなかった。 「何てことなの…」 「これは…酷いですわね…」 ナタリアは思わず袖で口元をおさえる。 瘴気だけではない。そこには間違いようのない、吐き気を呼ぶような腐臭が漂っていた。 「ルーク様!」 近くに立っていたキムラスカの兵士が、ルークたちを見つけて駆け寄る。 「町の人たちはどうなったんだ?」 「それが…我々が到着したときにはもう、町の中にはほとんど人の姿はありませんでした」 そう、異様だったのは、親書には取り残されているとあった町の人々が見当たらないことだ。 その代りのように、いくつもの魔物の死骸が家々の間で嫌な臭いを漂わせている。 「ほとんどということは、助け出された方もいるのですね?」 「はい。瘴気による衰弱が激しかったため、先遣隊の一部が担いで近隣の町へ向かっております」 「そっか。でも街道ではすれ違わなかったな」 「どこかで休んでいたのでしょうか…」 助け出された人々もほとんど意識のない状態だったらしい。だから結局人々の数が少なすぎることの理由も聞けなかった、と兵士はため息をつく。 「数名は残念ながら遺体で発見されたため、町の外で埋葬いたしましたました。ただ…瘴気によるものか魔物によるものかは不明なのですが」 「不明?」 「ええ、その…酷く、損壊しておりましたので」 「う…」 魔物に引き裂かれたことが致命傷となったのか、それとも死してなお蹂躙されたのか。 言い淀んだ様子にその場の凄惨さが予想されて、アニスは口をへの字に曲げた。 「残りの人々は…魔物に襲われて、坑道に逃げ込んだのでは?」 「我々もそう考えております。ですが、坑道の中は特に瘴気がひどく…捜索は難航しております」 健康な人間であれば、少量の瘴気を吸い込んだところでそれほど害は出ない。しかし長い間瘴気にあたり続ければ、どれだけ体力があっても体の内側から病んでいってしまう。 ましてやこれだけの濃度だ、救出に当たる兵士たちもそう長居はできないだろう。 「ヴァン師匠は、どこに?」 周囲にはほかの見張りの兵士が数名立っているのみだった。 「一部の兵士は瘴気対策のため町の外で野営の準備を、あとは手分けして坑道を探索しております。といっても…現在入ることのできる坑道は二つだけですが」 上部のほうの古い坑道は鉱床を掘り尽くし、下にあるものも地震による崩落で閉鎖が相次いだのだという。 それらは人が入り込めないように岩で塞いであるので、探索が可能なのは二つしか残っていないということだった。 「二つか…」 救助に来ている人数を思えば、しらみつぶしに探すことができそうでもある。 しかし、坑道の奥は複雑に枝分かれしており、ところどころは非常に濃い瘴気が溜まっているらしい。 「第十四坑道は魔物も住み着いておりました。もちろん奴らも瘴気を吸っているのでしょうが、我々と違ってそれほど効いてはいないようで…」 「うーん、でもそれじゃあ、その坑道に人がいても…」 もう死んでいるのでは、と続く言葉を飲み込んで、アニス首を振った。 「希望を捨ててはいけませんわ。わたくしたちも探しに行きましょう」 「そうですね」 「ヴァン謡将は第十四坑道のほうへ入られたようです」 ルークたちは顔を合わせて頷きあう。 「行こう!」 |