promised tune


カーテンを閉じていても、窓の外からは街の活気が伝わってくる。
足音、商店の呼び声、様々なスパイスの香り、砂埃、そして国境を観光に訪れる人々。
交易の街ケセドニアは賑やかだ。
「…どうだ?」
買い出しから戻ってきたルークとティアが、心配そうにベッドを覗き込んだ。
宿屋の一室。ベッドの上には、目を閉じたままのイオンの姿がある。
「やはり相当体力を消耗していたようですね。医者の言うとおり、しばらくは安静にしている必要があるでしょう」
六神将の追手がかかることなくザオ遺跡を抜けられたまでは良かったが、途中でイオンが意識を失ってしまったのだ。
ディストの陸艦を最速で走らせてケセドニアにやってきたものの、医者も過労だろうと言い、入院よりも宿、できるなら自宅などの落ち着ける環境での療養を勧めていた。
医者の心得もあるジェイドがこうして付き添ってはいるが、今後どうするのかはまだ全く決まっていない。
「そっか…アニスはもう大丈夫なのか?」
イオンの隣のベッドに腰かけていたのは、ルークたちが出かける前はイオンと同じように横たわっていたアニス。
「あたしのはただの怪我だから、ティアの治癒でもうすっかり。大丈夫ですよぉ」
そう言いながらも、普段ほどの元気は感じられない。
「先程マルクトの領事館から呼び出しがありました。私はこれから向かおうと思いますが…ルーク、あなたはどうしますか?」
「うん、俺も行く。ここはティアと…ナタリア、任せてもいいよな」
「え、ええ…わかりましたわ。お気をつけて」

「っぷしょん!…ですの…」

歩くたびに立ち上る砂埃に、ミュウがくしゃみをした。
ルークがミュウを拾い上げて見渡すと、赤茶けた街並みの中のあちこちに兵士たちの姿が見える。
今でこそ町の顔役であるアスターが上手く治めているものの、やはり国境に近づくにつれてどことなく緊張感が漂っていた。
国境を示す石碑の前を行き来して歓声を上げる少年を横目に、ジェイドとルークは真っ直ぐマルクトの領事館へ向かった。
「お待ちしておりました」
「しばらく見ない間に随分と兵士の数が増えているようですが…何かあったのですか」
領事にジェイドが問うと、苦笑が返ってくる。
「いえ…むしろ何事も起こさぬようにと、軍の上部から伝令がありまして」
町の中央をキムラスカとマルクトの国境が横切るこの街は、両国の窓口であり互いをけん制しあう場でもある。酒場の喧嘩ひとつにしてもどちらの国の兵士の管轄になるのかと、町の建設当初は上手くいかないことも多かったらしい。
これから和平を結ぼうという大事な時に、余計な揉め事を起こさぬように警戒しているのだろう。
「締め付けすぎは逆効果だと思いますが…まあそれはそれとして、カイツールへ向かう船の件です」
「バチカルから先に船が着いてるはずなんだけど、ここに何か連絡は?」
ルークを見て領事はひとつ頷く。
「はい。風向きが悪かったとのことで、こちらへは予定より一日遅れて昨日ご到着でした」
「そっか…じゃ、港へ行けば乗れるんだな?」
(ヴァン師匠と同じ船に、ガイもいる…)
ルーク
「それが…グランツ謡将から伝書鳩が届いておりまして、補給が済み次第カイツールに向かい、先遣隊と共にアクゼリュスに向けて発つ、と」
「それではもう出発したということですか?」
「はい。補給についても前もって指示があったようで、昨日の夜には積み込みを終えて発たれました」
「…じゃあ、俺たちも急いで出発しないと…」
船の準備は出来ている、と領事は今すぐにでも港へ案内したそうだったが、イオンのことを考えるとそういうわけにも行かなかった。
イオンが気がつくまで待つか、そのまま船に乗せるか、置いていくか。しかし置いていくならば、誰かがイオンを守るために残らなければならないだろう。
マルクト軍に託すかアスターに頼るという方法もあるが、すぐには決められそうにない。
「いったん宿へ戻り準備を整えます。すみませんが、船はいつでも出発できるようにしておいてください」
そう言ってジェイドが踵を返そうとしたとき、ドアの向こう側でなにやら騒がしい気配がした。

「だめですってぇ、もー!」

「あの声は…アニス?」
ルークとジェイドが顔を見合わせる。
ノックとほぼ同時に開かれたドアの向こうには、慌てた様子のアニスと、イオンが立っていた。
「ご心配をおかけしました。僕ならもう、大丈夫です」
「大丈夫じゃないですよぉ!さっき気がついたばっかりなんですから」
頭を抱えたアニスが、助けを求めるようにジェイドを見る。
「大佐からも何か言ってあげてください!」
「そうですねぇ…」
ジェイドはイオンに近づき脈を取る。額に手を当てて熱を確かめると、ルークのほうに向き直った。
「体力の問題はありますが、船に乗っているぶんには消耗も少ないかと思います。ここにいるよりは、船でカイツールまで行った後にグランコクマへお連れしたほうが治療もしやすいかもしれません」
「連れて行ってください。お願いです、ルーク…」
親善大使として、決めるのはルークだ。ジェイドの目がそういっているような気がして、ルークはうつむいた。
(イオンがパッセージリングに近づけば、またラルゴたちや…ヴァン師匠に利用されてしまうかもしれない)
だが、王都として警備の厳しいバチカルに居てさえ攫われるのだ。どこにいたって安全ということはないのだろう。
「…もしデオ峠を越えられる体力がないなら、アクゼリュスには連れて行けない。でも、とりあえずカイツールまでは…一緒に行こう」
だから、今はそれしか言えなかった。




BACK / NEXT