promised tune


意識が絡み合う。
快楽、嫌悪、苦しみ、喜び、悲しみ、怒り、そして愛しさ。
それは本当に自分のものなのだろうか。
いくつもの感情が次々と現れては消え、ルークは翻弄される。

世界は渦巻いていた。

その中に独り、放り出されているようだ。
いや、自分こそ世界そのものであり、渦巻いているのは自分自身なのだ。
目眩のような浮遊感の中、ふとアッシュの存在を感じた。
近くにいる。すぐ傍に。
視覚というものが存在しない世界でその姿を見ることはできない。
しかし、確かにそこにアッシュはいた。
世界の裏側のようにも、自分自身の中のようにも思える場所。
鼓動だけはぴったりと寄り添って、同じ旋律を奏でている。
やがてその世界はいくつもの感覚に分離して、『自分』を形作る。
遠くから迫ってくる眩しい光に、手を伸ばして…
ハッと、眼を開けた。

「あ…」

意識を取り戻すと、自分の動悸がやたらと大きく感じられた。
目の前は暗い。
しかしこれはヘルメットをかぶっているための暗さ。覆われていない顔の下のほうから、細く細く光が入り込んでいる。
そっとアッシュが手を離すと、そこで初めて手を繋いでいたことを思い出す。
ようやく五感が自分に戻ってきたような、何だかホッとしたような気分だった。
「はい、もう起きてもいいですよ」
ドアを開ける音とともにジェイドの声がした。
ヘルメットが取り去られると、ひんやりとした空気と共に開放感に満たされる。
汗ばんでいた額をぬぐい身体を起こすと、反対側でアッシュも同じように起き上がっていた。
「どうですか?調子は」
「なんか…ちょっとぼーっとしてるけど。でも身体は軽くなってる気がする」
「左目についてはどうです?」
そう言われてルークは眼帯を外した。途端に目に飛び込んでくる光が眩しすぎて、思わず目を押さえた。
「…ってー……こっちは、あんまし変わってないんじゃないかな…」
顔を上げる。その左目はやはり金色のままで、今まで通り視力は失われたままだった。
(いや、これは…?)
右目だけ閉じてみる。
いままで見られた金色の粉のようなものが、よりはっきり見えるような気がしたのだ。
「!」
唐突に金色の光の塊がその視界に飛び込んできて、ルークは両目を開く。
「お前、その目は…」
目の前にいたのは、アッシュだった。
(なんだ、これ…もしかして音素を、見てる…?)
それが視力の回復につながるものかはわからなかったが、何も見えないよりましと思うべきなのかもしれない。
まだルークが眼帯を取った姿を見ていなかったアッシュは、ルークの左目をまじまじと覗きこむ。
「見えてないのか…」
「あなたには何も起こっていないのですね?アッシュ」
「どういうことだ?」
ジェイドの口からルークの目の色が変わり、見えなくなるまでの出来事を知らされたアッシュは、思わず自分の右目に手をやる。
ローレライは触れただろうか。
あのとき、この目に……
「俺にもいずれ起こる、ということか?」
少なくともこれまで、眼の色が変化したことはなかった。
「それはわかりません。そもそもあなたとルークが全く同じ過程を経て今の状態になったわけではないのでしょう?」
発現していないだけなのか、それとも…
「ローレライの宝珠や剣に関係があるのか…?」
かつてローレライからそれらを渡されたとき、ルークが自分の体内に取り込んでしまったように。
またローレライから何かを渡されたというのだろうか。
「今はまだ検証不足、といったところです。こればかりは、もう一度ローレライに会わなければわからないかもしれませんね」
後ろで、ディストが大きく欠伸をした。
「ふあぁ…いや、面白いものを見せてもらいましたよ」
「まあ、もっと面白いこともあるんですけどねぇ。六神将であるあなたにこれ以上は、ちょっと」
意味ありげなジェイドの言葉にディストは勢いよく振り返った。
「何ですって?」
「いえいえ、もう日も昇りますし、お帰りいただいて結構ですよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!何です?これ以上のこととは」
また手玉に取られているディストを視界から追い出すと、アッシュはため息交じりの欠伸。
「ついてくる方に一万ガルドだな」
「あ、ずるいぞアッシュ、俺も!」
「ま、そうなったらまたあなたたちにご協力いただくんですけどね」
さらりとジェイドの言ったことに、ルークとアッシュはそろって振り向く。
「何だって聞いているでしょう!」
「そうですねぇ…記憶の継承≠ニでもしておきましょうか」
「!!」
ディストの表情を見て、やはり賭けにならなかったと二人は思ったのだった。




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