promised tune


「ルーク様、お早うございます」
メイドの声と、ノックの音。
「…起きてるよ」
いつもなら寝ていてもおかしくないはずの時間だが、ルークはすでに身支度を整えていた。
目が覚めてしまったのだ。
旅、それも野宿に慣れたせいで、日の出とともに起床するような生活リズムになってしまっているせいもある。
「まあ、ミュウ様もご一緒だったのですね」
「はいですの!」
ドアを開けてお辞儀をしたメイドが微笑む。
「応接室で皆様お待ちのようですよ」
どうやらルーク以外はさらに早起きのようだった。
空気の入れ替えにと開け放たれた窓から、僅かに湿った風が吹き込む。
曇り空に太陽の位置は窺えないが、カイツール行きの船はそろそろ出立する時間だろうか。
ジェイドの提案により、アクゼリュスへは船と陸とで別れて向かうことになっていた。
六神将の襲撃を避けるなら、彼らを統括しているであろうヴァンと一緒のほうが良いのでは?という案もあったのだが、もしヴァンも含めて本格的に戦うことになった場合、狭い船の上ではイオンを守り切るのは難しい。
それならばまだ、別のほうがやりやすいだろうということになったのだ。
ルークは急ぎ足で応接室に向かった。
「…どうしたんだ?」
扉を開けるなり、その場の緊張感に気づく。
腕を組んで椅子に座っているジェイド。
振り向いたティアが、ひどく深刻な顔をしていた。
アニスに至っては、泣きそうな顔をしている。
部屋の中にいるのはそれだけだ。
「ルーク、大変なの」
イオン様がいないんです、と呟いてアニスがその場にへたり込む。息が上がっているようだ。
服の汚れや髪の乱れ方を見ると、すでにあちこち走りまわったのではないだろうか。
「今アニスが慌てて戻ってきて私たちも知ったところなのだけど…」
「イオンが?いつ?」
「朝、ベッドがもぬけの殻で…街中を聞いて回ったら、サーカス団みたいな人たちと一緒にいたってことはわかったんですけど、どうやら町の外へ出ちゃったみたいで…!」
「ガイもいないみたいなの。一緒だといいのだけど…」
「ガイも?」
「私が聞いた感じじゃ、イオン様と一緒じゃないみたいです」
(サーカス団ってまさか…漆黒の翼?)
やはり先日街中で神託の盾兵と話をしていたのはその打ち合わせだったのだろうか。
「急ぎましょう、まだ追いつけるかもしれないわ」
「でも、街の外には神託の盾の兵士たちがいて、ちらっと見ただけだけどライガっぽいのもいて…」
「アリエッタが来てるのかな」
「彼女にはイオン様がいなくなったことは知られないほうがいいでしょうね」
「そうね、まだ町の外にいるのなら、イオン様には気づいていないんでしょうけど」
息が整ってきたアニスはルークに飛びつかんばかりの勢いでガバッと立ち上がった。
「ルーク様、とにかくイオン様を助けに行きましょう!」
「ああ、でもガイは…どこに行ったんだ?」
不安げにルークが頷いたとき、しわがれた声がした。

「船です」

開いた窓の外。
振り向いた視線の先に、小柄な老人が立っていた。
「ペール…」
「ガイは船に行くと申しておりました。ルーク様にはそうとだけ伝えてほしいと…」
庭師は中庭から窓越しに、まっすぐルークを見た。
「じゃあ、ヴァン師匠と…?」
(ペールは…ガイから何を聞いたんだろうか)
彼もまたガイとおなじ。ホドの生き残りなのだ。
一礼してペールは中庭に消える。
ふと横のティアを見ると、心配そうなその瞳に映った自分の顔に気づいた。
何故こんなに泣きそうな顔をしているのだろう。
「ガイ…裏切ったって、こと?」
アニスの声にも隠しきれない戸惑い。
ルークは首を振った。
「ご主人さま…辛そうですの…」
慰めるように寄り添ってくるミュウを撫でる。
「行こう、今は、イオンを、探さなきゃ」
それは自分に言い聞かせる言葉でもあったが、胸の奥に何かが詰まったように、声は途切れ途切れになる。
「居場所がはっきりしているのであれば、まだ安心です」
ジェイドの声だけが妙に冷静だった。
「互いに順調に進めば、カイツールで会うことになるでしょう。経緯はその時にでも正せばいい」
「そうね。でも…入口から出られないのであれば、どうやって町の外に出たらいいのかしら…」
それは、ガイが教えてくれる。そのはずだった。
(俺がもう知ってるから、自分の出番はもうないとでも思ったのかよ、ガイ…!)
「…天空滑車で廃工場に行こう。そこなら、非常口か排水口が町の外につながってるはずだ」




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