promised tune


「ルーク、お前には我が国の親善大使としてアクゼリュスへ向かってもらいたい」
「わかりました。…陛下、師匠については…」
「うむ、それなのだがな…ヴァンも同様にアクゼリュスへ救援に向かわせる」
「!」
「何事もなく救出できたなら、それは予言のひとつの成就。もちろん監視はつけるが、ヴァンが預言を覆そうとしているのならおとなしく従うはずがないだろう」
「なるほど、全てはその結果で見極めようというわけですな」
公爵も納得したように頷く。
「でも…!これ以上何かあってからでは遅いんです」
もしパッセージリングが破壊されてしまえば、世界を支えるセフィロトのバランスはさらに崩れる。
「だがきっと、ルークの危惧するような事は起きないであろう」
王の確信を持った言葉に、ファブレ公爵がうなずく。
「わしはユリアの預言を信じている。それは何よりルーク、そなたの目が預言の正しさを物語っているのだ」
「俺の…」
控えていたファブレ公爵がルークを見た。
「ルーク、お前は昨夜その目について、ローレライとの契約の証だと言ったな」
「…そうです」
「それが真であれば、そなたが屋敷の外へ出ることとなったのもまた、預言のうちなのだ」
「お父様、それは…?」
インゴベルトが大臣に運ばせたものを見て、ナタリアが声を上げた。
人の顔よりは少し小さいほどの石。
「これはかつてキムラスカに落ちた譜石だ。ティアよ…この下のほうに書かれた預言を詠んでみなさい」
言われたとおりにティアがその石を捧げ持つ。

――――ND2000 ローレライの力を継ぐもの キムラスカに誕生す…

キムラスカに生まれた、赤い髪の男児。キムラスカに繁栄をもたらすとされる彼は人々を引き連れ鉱山の街へ赴く、とそこには記されていた。
謁見の間にある高い窓から、すっと光が差し込む。
それは太陽にかかっていた雲が晴れたせいなのだろうが、まるで舞台照明のようにティアを包む光はその詠む預言の神秘性を象徴するかのようだった。
「お前は選ばれた者なのだ、ルーク」
男児の名を現す、聖なる焔の光≠ニは、ルーク=B
一同の視線が一斉に自分に注がれるのを感じ、ルークは居心地悪げに小さくため息をついた。




カツン、カツンと固いものがぶつかる音が続く。
石でできた階段を降りる自分の足音だ。
一段降りる度に、空気は湿り気のある、地下のものに変わっていく。
足を止めた。
ルークの目の前にあるのは、空気取りの鉄格子が嵌められた分厚い木の扉。
横に立つ兵士に声をかけると、軋んだ音を立てて鍵が開けられる。
その向こうは言いようのない不快な臭いと、揺れる頼りない明かり。

「……来たか」

牢の中で正座をしていた男が顔を上げた。
「明日はアクゼリュスに向けて出立なのだろう。ここで油を売っている暇があるとは思えんが?」
「………。」
師匠、と声をかけようとして、口をつぐむ。
相手の顔に浮かんでいたのは笑み。こちらを挑発するような、歪んだ笑みだった。
「死の預言に、なおも挑むのだな」
人々を引き連れ、鉱山都市へ向かう…そのあとに続くのは、男児の死と引き換えに起こった戦争でキムラスカが勝利し、更なる繁栄を得るだろうという預言。
ルークはゆっくりと首を振る。
「アクゼリュスのこととは…限らない」
鉱山都市と呼ばれる場所――――いや、かつてそう呼ばれていた廃墟、レムの塔にもその予言はあてはまる。
それに、そこで自分が死ぬことはなかったのだ。
「同じ轍は踏まん」
「!」
突然沸き起こった殺気に身構える。
鉄格子を挟んでの対峙。しかも相手は丸腰だというのに、背筋を駆けるのは、恐怖。
息をのんだルークの前で、しかしその殺気は唐突にたち消える。
「ふ…まだ随分と不安定らしい」
僅かによろめいた様子で、ヴァンは息を吐いた。
しかしその姿は疲労しているようであるのに、奥底からにじみ出てくる力を感じる。
こんな姿を以前にも見たことがあった。
(…どこで?)
ルークはふと気づき、戦慄する。
それは取り込んだローレライを制御しようとしていた姿そのものではないか?
では、あの時ルークの身体から抜き取られたものは…やはり。
「どうした、倒すなら今だぞ?ローレライが僅かに抵抗している、今のうちに…」
駄目押しのように問うヴァンに、しかし片目のルークは動くことも出来ない。
いや、両の目が無事だったとしても、果たして一人で勝てるかどうか…
それはルークが知っていたはずのヴァンの力量をはるかに超えているように感じられた。
「何を驚いている?もう、説明する必要はあるまい」
澱んだ空気は皮膚に張り付くようにぬるい。
何故、会いに行くと言い出したのか。それも、自分一人で行くと。ミュウさえも置いて。
不安に囚われながらも、視線を逸らすことさえできない。
「私もお前と同じ、世界の理に逆行するもの」
繰り返す時に囚われた身。
それを、確かめたかったのだ。
低い声で告げられた言葉に、ルークは唇を噛む。
「それなら…なぜ繰り返すんですか、こんなこと!」
「何故?」
すっと目を細めたヴァンの表情に、かつての師匠としてみせた優しさはひとかけらもない。
「私が望むものがその先にあるからだ。このままでは、何ひとつ変えられないのだと私は知っている≠フだから…」
預言の呪縛から逃れ、新しい世界で人々は自由を掴む。その思いは同じなのに。
「もう一度私を倒すがいい。それ以外、お前に残された道はない」
そこへ辿り着くための方法は、あまりにも違う。
ヴァンはまるで謡うように呟いた。

「これは――――ユリアの望んだことなのだから」




BACK / NEXT