promised tune


「待っていたぞ、ルーク」
次の日、ルークたちが再びバチカル城を訪れると、そこには既にジェイドやイオン、そして父であるファブレ公爵までもが顔を揃えていた。
インゴベルトの隣の椅子には、昨日とはまた違うドレスに身を包んだナタリアが座っている。
「…兄さんの姿が見えないわ」
ルークの後ろでティアが小さく呟く。
ヴァンだけでなく、モースや神託の盾騎士団の兵士の姿もない。
それをルークがインゴベルトに問うと、国王は難しい顔で息を吐き出した。
「…牢だ」
「お父様は、この度のルークの災禍についてはヴァン謡将がご兄妹で仕組んだことではないか、と」
続けたのはナタリアである。
「違います!そのようなこと…!」
声を上げたティアを制すようにインゴベルトは片手を上げる。
「そなたがそもそも公爵邸に忍びこむような真似をせねば始まらなかったであろうこと、これは間違いないな」
「…はい…」
「そして元来そなたたち兄妹の間に諍いがあったとの話も聞いておる」
「…では私も、兄とともに牢に入るべきでしょうか」
「叔父上!」
唇を噛むティアの代わりにルークが反論しようとしたが、それを待たずインゴベルトは首を振った。
「いや…そうはせん」
「では何故兄は牢へ…?」
「ヴァンについては先ほど大詠師モースよりその無実を保証するとの書状が届いたのだ。ダアトの意思を覆すほどの証拠がない以上、この話が終った後に放免とするつもりでおる」
「ティアさんについても同様ですわ」
(無実…それは、俺が屋敷から飛ばされたことについてはそうかもしれないけど…)
ギュッと拳を握ったルークが、一歩前に進み出る。

「俺からとても重要なお話があります、国王陛下…」

「ふむ、導師イオンも何かそのようなことを仰っていたな。言ってみるがいい」
ちらりとイオンを見ると、どこか心配そうな表情ながらも頷いていた。
「ヴァン師匠が本当に無罪かどうか、俺は保証することができません。いえ、俺についてのことではなく、本当に大切なのはこれからのことなんです」
ルークの目の下にはうっすらと隈ができている。
ローレライの夢を見た浅い眠りの後、話さなければならないことをずっと考えていた。
「師匠は…予言を覆し、この世界を…壊そうとしています」
自分の記憶のことと言えば、一笑に付されるかもしれない。
だから、これはローレライの告げたことなのだと、彼が感じている脅威なのだと、そう伝えることにした。
大地を壊し、世界を作り変える計画。預言のない、世界に。
「俺はただ預言どおりに行動することが正しいとは思いません。でも、だからといって今ここに生きている人達を否定するなんて、その全てをゼロに戻すなんて計画を受け入れることもできない」
何かが変わってほしい。ただそれだけを望んでルークは言葉を紡いだ。
手遅れになる前に。
この先起こるであろうことを告げることで、打つ手が増えるのなら。
「そうなる前にプラネットストームを止め、ローレライを解放したいんです。ローレライも、それを望んでいる…」
しかし話し終わったルークに国王が向けたのは苦笑だった。
「ルークよ…そのようなこと、にわかには信じられぬ」
「そのような危機があるのならば、それこそ預言に読まれていないはずがないだろう」
公爵は全く信じられないというように首を振った。
「万が一予言を覆そうとしているのであるならば、大詠師モースがヴァンの身を保証する理由もない」
「そもそも大地を壊すことなど、一人の人間が望んだところで叶うものなのか?またなぜそれほどまでに預言を憎まねばならぬ?我々は日々預言による恩恵を受け、預言の示す繁栄に向かって生きているというのに」
「それは…」
父親と叔父、いや公爵と国王の投げかける問いに答えようとして、ルークはふと迷った。
(ホドの事を、告げてもいいんだろうか)
彼の憎しみと、おそらくは世界に対する憂いの原点。
預言による侵略。そしてヴァン自らが駒としてその崩落を引き起こしたこと。
(せっかくマルクトと和平が結ばれようとしているのに、この話をしてしまえば…)
かつての戦争にその起因があると言ってしまえば、責任はどちらの国かという話に戻ってしまうのではないか。
それは記憶の中で幾度も聞いた、国家と国家の哀しい意地の張り合い。
そして一つ間違えれば、ガイの素性までもを知らせることになってしまう。
「ルーク、あなたが世界のことを考え、民を幸せにしようと考えていることはとても嬉しく思いますわ。でも…」
ルークが躊躇している間にかけられた声。
懸命に理解しようとしている様子のナタリアだが、それでも、と首をかしげる。
「いまや世界には莫大な数の音機関があり、それらはプラネットストームによって得られるエネルギーによって動かされているのでは?それを止めることなどキムラスカの一存ではできませんわ」
今すぐにそれができるとはルークも思っていなかった。
そもそもローレライが自分に託した『世界の解放』はローレライをプラネットストームから解き放つことを指すのではないのだろう。
「でも和平が結ばれれば…話し合いはできる」
世界に何が起ころうとしているのか。記憶以上のことを考えるには、まだ情報が少なすぎる。
ローレライの真意を考えるためにも、そしてヴァンの計画を止めるためにも、前提条件として和平は必要だった。
「ふむ。確かに昨夜の緊急会議により、我がキムラスカはマルクト帝国と和平条約を締結することで合意した」
しかし、とインゴベルトは深く息をつく。
「親書にはもうひとつ、救援の要請があったのだ」
手に書類の束を持った大臣が文字を指で追いながら一同に説明する。
「現在、マルクト帝国のアクゼリュスという鉱山都市において瘴気の被害が発生しております。街はその毒素により壊滅の危機に陥っているということです」
(アクゼリュス…)
「もちろんマルクト側から街道が延びておるが、いまやその街道も瘴気に覆われ通り抜けの不可能な状態であるらしい」
大臣の言葉にうなずきながら、インゴベルトはルークを見た。
「だが、元を正せばアクゼリュスは我が国の領土であったのだ。当然カイツール側へも街道が繋がっている」
「そこでキムラスカに住民の保護を要請していらっしゃったのですわ」
ナタリアがすっとインゴベルトに向き直ると、お父様、と呼びかける。
「やはりわたくしもアクゼリュスへ参ります。ルークがこれだけ国のことを、いえ世界のことを考えているというのに、わたくしだって何かしないわけにはいきませんわ」
「それはならんと言ったはずだぞ、ナタリア…」
瘴気は体力の少ないものほど影響を受けやすい。
ある程度の武術鍛錬をこなしているとはいえ、王女であるナタリアをそんな危険にさらすなど国王としても認められるものではないのだろう。
悔しそうにドレスを握り締めるナタリアから視線を外し、インゴベルトはルークを見た。




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