promised tune
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「ルーク・フォン・ファブレ様、ご到着です!」 「!!」 門番の言葉通り、モースはいかなった。 その代わり国王の傍に控えていたのは長身の男。 「それでは陛下、私は失礼いたします」 「うむ。大儀であったな、ヴァン」 「兄さん…」 ティアが呟くと同時に、ゆっくりと振り向く。 しかしルークを見て声を上げたのはヴァンではなく、国王のほうだった。 「ルーク!その目は…体調が優れぬとはそのことであったのか」 キャツベルトで倒れたことが知らされていたのだろうが、まさか眼帯を付けているとは思わなかったのだろう。国王――――インゴベルトは言いながら思わず腰を浮かす。 ヴァンのほうは僅かに目を細めたのみ。 何も知らないものが見れば、ルークを心配する表情にも見えたかもしれない。 しかしその口元に一瞬浮かんだのは、嘲笑うような笑み。 一礼してその場を去ろうとするヴァンに声を上げたのは、ティアではなかった。 「ヴァン揺将!あなたが…あなたがルークの瞳をこうしたのですか?」 「ガイ…」 「何を思い違いをしておられるのかわからんが…私はよろめいたルークを助け起こしたにすぎない」 驚いた表情で、しかし静かにヴァンは返す。 「…ファブレ家の使用人だったな。ルークを護ろうというその姿勢は良いが、問う相手を間違えないでもらおう」 「っ…」 ガイが下を向く。 ここであまりことを荒立てられない理由がガイにはあった。特に国王であるインゴベルトに警戒されるようなことがあってはいけないのだ。 それでも、ルークのために問わずにはいられなかった。 「甲板に出るとルークが朦朧としているように見えたのでな…これは先ほど国王陛下にも申し上げたことだが。声をかけようとした瞬間に何か光が奔り、ルークが倒れかけたのだ」 「そんな…俺は…」 確かにローレライの力が暴走しかけたのは事実だ。 しかしそこで超震動を起こした覚えはない。何より、ルークの身体を支配したローレライについてはっきりとその名を口にしたのはヴァンだったではないか。 「覚えていないのか?しかし、甲板から手すりに穿たれた力の跡を見たものはいるだろう。その衝撃によるものと思い、できることなら王室付きの医師団の診察を受けさせてはいただけないかと…」 「その通りだ。数年前に王宮付きの医師団からは引退しているがかなり腕の立つ医者が城下にもおる。これからそこへ使いを出すと陛下からご命令も頂いておる」 脇に控えていた大臣がヴァンの言葉を引き取るように続ける。どうやら国王や大臣は完全にヴァンの言葉を信じているようだった。 再び一礼し、余裕の表情で退室していくヴァンを見送るルークは唇を噛む。しかしここで言い合いを続ければ、イオンやジェイドの心証も悪くなってしまうだろう。 そうなるまえに、和平の話だけはしておかねばならないのだ。 「ともあれ…よくぞ戻ったな」 向き直ったルークにかけられた言葉にはなお心配そうな響きがあった。 「伯父上…いえ、陛下。この度はご心配をおかけして申し訳ありません」 「陛下、この度の事、私からもお詫び申し上げます」 ティアもそう言って頭を下げる。 「ふむ…そなたがヴァンの妹か。…話は聞いておる。いや、今はそれよりも…」 インゴベルトの目がイオンに向けられた。 「陛下、こちらが導師イオン、そしてマルクトのジェイドです」 ルークが示すのにあわせ、二人はそれぞれ前に進みでる。 ジェイドに向けられるインゴベルトの視線はイオンへのそれに比べればどこか冷ややかではあったが、二国間の緊張を考えるとそれが普通なのかもしれない。 それでも傍に控えていた大臣が親書を受け取ると、ゆっくりと頷いた。 「こうして導師イオンにまでお越しいただいたのだ、無下にはせぬ。しかしここで今すぐ答えを出せといわれても出せるものではないのでな」 「心得ております」 ジェイドがうなずくと、傍に控える大臣と二言三言小さな声で囁き合う。 「…そうだな、明日もう一度参るがよい。ルーク、お前もじゃ」 「陛下、俺からもお話が…」 切り出そうとしたルークを押し留め、インゴベルトは首を振った。 「今日のところは戻ってゆっくり休め。シュザンヌも…随分と心配しておった。早く顔を見せてやれ」 「しかし…」 「もとより病弱な性質ではあったが、またどうも優れぬ様子らしい。わしの名代としてナタリアに見舞いに行かせておるが…お前が早く戻ってやるのが一番であろう」 なおもルークの言葉を遮る。 ルークの母でありインゴベルトの妹でもあるシュザンヌは、ルークを心配するあまり倒れ、そのまま床に伏せってしまったらしい。 「…はい。わかりました」 叔父とはいえ国王の言である。それ以上強く逆らうこともできず、ルークたちは退出するしかなかった。 「みんなの言う通りだな…焦っても、結局明日にならないときちんと話はできないみたいだ」 兵士の敬礼に見送られて、再びバチカル城の門をくぐる。 苦笑したルークは庭園を照らす茜色の光に目を細めた。 西へと傾いた太陽。オレンジから青のグラデーションに変わった空。植え込みの木々の影が広場に不思議な模様を描く。 そして、その先に広がる城下の町並みもまた陽に染まり、現像的と言えるほど美しい光景を作り出していた。 誰からともなくため息がこぼれる。 これが、バチカルでもっとも美しいと言われる景色だ。 「俺、屋敷に戻らなきゃ」 振り向くと、ルークの目の前でアニスが手を祈りの形に組んで首をかしげる。 「ルーク様ぁ、私ルーク様のおうちが見てみたいです!」 もとよりルークもそのつもりだった。頷くと、一行を見渡す。 「ああ、いいぜ。みんなも…良かったら泊まっていってくれないかな?」 「いいのかしら…」 「そうですねぇ、私など叩き出されても文句は言えない気がしますが」 顔を見合わせたティアとジェイドだが、やがてジェイドが頷いた。 「まあ、イオン様を守るにはお邪魔した方が良さそうです」 「ですよね、ですよね!さっすが大佐〜」 「お世話になります、ルーク」 一つ息をすると、ルークはそれまで浮かべていた笑顔をふっと消す。 「それでさ、みんなにお願いがあるんだ…」 |