promised tune


「大丈夫でしょうか…」
「ええ、ここで原因や治療法がわかればいいのですけれど…」
木を組んだだけの小さな椅子に、アニス、イオン、ティアの順で座る。
囁くような小声での会話も、狭い部屋にはずいぶん響くように感じられた。
「そうですね、それに、ガイの様子も気になります」
大勢で待合室を占領するわけには行かないと言って、ガイは診療所の外で立っている。
ルークがどこか無理をしているのはイオンやティアも感じていた。
しかし親書を届け終われば、屋敷に戻りゆっくりと休むこともできるだろう。だからこそ、急ごうとするルークをあえて止めることなく後に続いていたのだ。
「イオン様ぁ、ちょっとはご自分の身体のことも心配してくださいよ」
アニスがイオンを肘でつつくと、頬を膨らませた。
「僕のことは、今に始まったことではありませんから。悪化する様子もありませんし、まだ大丈夫ですよ」
「そう言って無茶しちゃうから心配なんですよぉ」
「ふふふ…ありがとうございます、アニス。…それにしてもガイのあの様子は…船を下りてからでしょうか」
タルタロスから落下したルークを探しながら、ルークが未来の記憶を持っていると聞いたとき。
そしてコーラル城でルークがレプリカだということを言い出した時にさえ、疲労の色はあったものの態度には普段と変わりがないように見えたのだが。
しかし今のガイの様子はルークに負けず劣らず不安定なように見える。イオンにはそれが心配だった。
「何かあったのでしょうか?」
誰ともなく、ガイの立っているであろうドアのほうを見た。
「どーせガイのことだし、ルークのことが心配じゃだけなんじゃないですかー?」
アニスは背中に背負っていた人形――――トクナガを抱えなおすと、小さな溜息。
「そういえば…キャツベルトでもルークが倒れてしまったから…ガイだけルークから直接詳しい話を聞けていないのね」
「ああ、じゃあそれでイラついてるんですよぉ、きっと。話せば治ったりして」
ガイにとって大事なこととは、やはりルークのことなのだろうか。
「そうですね、僕は考えすぎなのかもしれません…」
イオンが呟いたとき、ガチャ、と診療室の扉が開く。
「!…ルーク、それは…」
現れたルークの、その眼帯姿を見て三人は立ち上がり、目を丸くした。
「…ガイは?」
「外にいます。呼んできましょうか?」
「イオン様は座っててください!」
イオンを無理やり椅子に座らせ、アニスはジェイドを見上げた。
「そうですね、少し狭いですが…ここをお借りして話してしまいましょう。アニス、お願いします」
「はーい」
返事とともにドアへ走ると、再び背負われたトクナガの足がぴこぴこと踊る。

「ルーク…大丈夫なのか?」

戻ってきたアニスに続いて待合室に入ったガイも、眼帯を見て驚きの表情を浮かべた。
ルークからいつもよりほんの少し離れた位置で立ち止まる。それが、ガイの心中を表しているようだった。
「ああ、えーっと…まずフォンスロットが閉じてて…その…」
何から話せばよいのか。
言葉に詰まったルークの肩を、ジェイドが叩いた。
「私から説明しましょう」
専門的な話は省きますが、と前置きして、ジェイドはルークの目についての診断をかいつまんで話す。
「…というわけで、しばらくはこのまま様子を見るしか無さそうです」
ルークを見つめたまま、しばしの沈黙。
誰もが予想していたより、ルークの左目の症状は重かった。
「でも、治らないわけではないんですね?」
ティアの呟きに、ジェイドが腕を組む。
「ええ。しかし…封印術のこともありますから、あまり楽観視もできないと思いますが」
「そうですね…しかしまさか、見えていないとは…」
「落ち着いたら、ベルケンドで精密調査をしたらどうかって言われたんだ」
暗い顔で俯くイオンに、ルークは無理やり笑みを浮かべてみせる。
見えないことは自分でもよくわかっていたものの、回復の見込みが低いと医者に言われてしまうとやはりショックは大きい。それでも、ここまで皆で浮かない顔をされてしまうと、さらに申し訳ないような、情けないような気持ちになりそうだった。
「そうね、確かにあそこなら設備も最新の物があるでしょうし…でも、何故そんなことに…?」
ルークの表情に、ティアが身を乗り出す。
「ルーク…あの夜、何があったの?」
「俺にもよくわからないんだ…ただ、ヴァン師匠が俺の中から何かを抜き出したんだと、思ってるけど…」
(…多分、ローレライの力を…)
「!」
ガイが顔を上げた。
「ヴァン謡将が、それを…?」
厳しい顔でティアが唇を噛んだ。
「じゃあ兄さんならあなたの目の治し方もわかるかもしれないってことね?」
「そうだとしても、素直に教えてくれますかねぇ」
ジェイドは飄々とした態度のまま、肩をすくめる。
「ではこの後は?」
イオンはルークと、ガイを交互に見た。
「予定通り親書を届けに城まで行く。ヴァン師匠のことは…伯父上にも言わなくちゃいけない」
「ルーク、その…さっきは悪かったな。ヴァン揺将を追って急いでたのは…目が…そのせいだったのか」
苦しげな表情で言葉を繋ぐガイに、ルークは首を振る。
「俺こそ…焦ってばっかりでうまく説明できなくて、ごめん」
「じゃあとにかく、バチカル城へ行きましょうよぉ」
重い空気を断ち切るかのように、アニスが高い声を上げる。
「そうですね。まずは親書をインゴベルト陛下に届けなくては」
「よし、行こう」
今度は誰も、ルークの言葉に異を唱えなかった。




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