promised tune
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居心地の悪い沈黙の中で、街のざわめきだけが右から左へ通り抜けていく。 「そうね…」 立ちすくむその背中に手を添えて、ティアが覗き込む。 「一生懸命前に進もうとするのは悪いことじゃないわ。でも、今のあなたは自分の記憶を確かめようとして、そして追い抜こうとしてただ急いでいる気がする…」 「俺は…」 この後、こうなるはずなんだ。 ああ、やっぱり。だから次は…? 違う?違うなら、あれはどうなるんだ…? そんなことの繰り返しで。記憶の、その軌跡をただ追っていただけなのだろうか。 「もちろん、あなたは私たちに記憶のことを話してくれた。これから世界に何が起ころうとしているか、兄さんが何をしようとしているのか…たぶんあなたの言うとおりなのだと思う。でも…」 真っ直ぐ見つめられ、ルークは目を瞬いた。 「あなたが一人でどんどん遠くへ離れていってしまう気がして、時々不安になるわ」 「違う、それは…」 ガイがすっと背を向けて、左右を見る。 そのまま、小さな路地を覗き込んだと思うと、その姿は消えてしまった。 「ここで立ち止まっていても邪魔になりそうですね。場所を変えましょう」 ぽんぽん、と手を叩くのを合図にしたように、ガイが細い道から戻ってくる。 「ガイ?」 ティアが声をかけると、まだどこか硬い表情のままでガイは路地を指す。 「こっちだ」 その指の先には、診療所の小さな看板があった。 軋んだ音を立てて開いた扉の向こうには、細く狭い待合室。 奥から顔を出した白衣の老人が、一行を見て首をかしげた。 「お忙しいところすみません。診てもらいたい人がいるのですが…」 ガイによると、今は街医者として細々と診療をしているこの老人は、かつてバチカル城に出入りする城付きの医者であったという。 彼はルークを見て目を丸くした後、そうかシュザンヌ様の、と小さく頷いた。 「なんと…」 消毒薬のにおいが染み付いた薄暗い部屋。 「長年医者をやっておりますが、このような症状は初めてです」 信じられないといった表情で真っ白な眉をひそめる。 ルークの瞳に当てていた小さなライトを片手に、彼は深く溜息をついた。 大人が三人も入れば窮屈に感じるほどの小さな診察室。外から小さく子供の泣く声が聞こえる。 小さな木の椅子から立ち上がると、カーテンを細く開けた。 差し込む光の眩しさに、ルークが目を細める。 「この眼球において、全てのフォンスロットが閉じたとでも言うのでしょうかな…よっぽど強い負荷にさらされたのでしょう、半分ガラス化しております」 医者はルークとその後ろに立つジェイドを交互に見ると、ゆっくり首を振る。 ルークの左目は金色のままであったが、そこにはかつて戦いの中で色が変わったときのような光を放つばかりの力は感じられなかった。 「ガラス…それじゃ俺の目は…」 「おそらく、この左目はフォンスロットが正常に戻っても、視力が戻る可能性は低いでしょう…」 「…そう…ですか…」 医師としての知識があるジェイドも、その医師の言葉に異を唱えようとはしなかった。 フォンスロットが全て潰されたような状態である、と彼も気がついていたのだろうか。 現状ではなるべく刺激を与えないでいるほかに回復の方法がないと、渡されたのは質素な眼帯だった。 慣れない手つきでそれを着けると、熱を持ったように感じていた左目の違和感が少しだけ治まる。 「おや、案外似合っていますね」 不安げに見上げてきたルークにジェイドが返したのは、そんな軽い言葉。 呆れと共に、思わず笑みが浮かぶ。 ジェイドのそのいつもと変わらない調子が、今はありがたかった。 |