promised tune


バチカルは巨大な街だった。
かつて譜石が大地に落ち、穿った大きな穴を利用して建設された、要塞都市。
人々の声、商店の匂い、鍛冶屋の音。そしてそれが幾重にも積み重なった街。
港から街の頂点にある城まで、それはまさにそびえ立つという表現がぴったりの、迫力あるたたずまいだった。

「ほへえええ…バチカルの街って、こんなに大きかったんだぁ…」

初めて訪れたアニスやミュウははしゃいだ様子であちこちを覗きまわる。
イオンやジェイドでさえ、物珍しげに見回していた。
「ご主人さま、凄いですの!あの人浮いていったですの!」
「ははは、ミュウ、あれは昇降機≠チていうんだよ。あっちのレールから下がってるのは天空滑車=v
「みゅうぅ…ガイさん物知りですの!」
「ミュウ、あんまり離れると踏まれるぞ…大丈夫か?イオン」
「ええ。ありがとうございます、ルーク」
一行の歩調は一番体力の低いイオンに合わせられている。
ちょうど休日ということもあり、賑わう街中の人ごみを縫っての移動はゆっくりとしたものだった。
「ルーク、バチカル城はあっちの昇降機を…ってそうか、知ってる≠だったよな、お前は…」
先頭を歩くルークは、入り組んだ街の中を迷うことなく進んでいく。苦笑するガイにすっとジェイドが並んだ。
「ガイ、そういえばあなたは、ずっとここで育ったのですか?」
「うん?いや…育ったのはもっと田舎のほうなんだけど。使用人になって長いからな。人生の半分は以上はここにいることになるのかな」
「なるほど…」
どこか意味ありげに頷くジェイドに、ガイは自分の格好を見下ろすように呟いた。
「言葉のなまりは無いつもりなんだけど…都会育ちじゃないように見えちまうのかな?」
「いえいえ、カイツール付近の地理もそうでしたが、随分色々な土地をご存知のようなので」
「そうか。まあ使いっパシリであちこち廻ったからなぁ」
ついでに卓上旅行が趣味でね、と笑ったガイの顔が、横から上がった黄色い声に凍りつく。

「あら!ガイじゃない?」
「ホントだ〜」
「久しぶりね、ガイ」

花屋の店先で談笑していた女性たちが、軽い足取りで寄ってくる。
砂埃の立つような勢いで壁際まで後退するガイだが、彼女たちの勢いは止まらない。
「おや、お知り合いですか?」
「すごいじゃんガイ、両手に花って感じぃ?」
バチカルの街をよく知っているガイのこと、知り合いがそこらじゅうにいたって不思議ではない。
しかしガイはどちらかといえば恐怖の表情で、彼女たちを見渡した。
「きききキミたち、悪いけど今はちょっと用事の途中で…」
「もー、いっつもそうじゃない!」
「いつになったら遊んでくれるのかしら」
ルークたちがぽかんと見守る間に、あっという間に彼女たちは両側からガイに迫っていく。
ガイの身体能力なら逃げ出すこともできるのだろうが、それよりもきゃあきゃあとはしゃぐ女性の迫力に負け、震えることしかできないようだ。
「それくらいにしといてやってくれよ。ガイは、女の子に弱いんだ」
「ルーク、それだと意味が違いますよ…」
思わず助け舟を出そうとしたルークの言葉に、イオンが苦笑する。
「あら、じゃあ別に遠慮しなくてもいいのに。ねえ?」
「ちょっとくらいだらしなくったって、甲斐性があっていいじゃない」
ガイが女性恐怖症だということを知ってやっているのだろうか。
女性たちはからかうように迫るものの、無理にガイに触れようとはしていないようだった。
「なるほど、ガイは女性に弱い、と」
ジェイドも楽しそうに笑い、メモを取る仕草をする。
「そうなんだけど、そうじゃないんだって!ああもう!」
「女性は好きだけど、女性恐怖症≠ニいうのは何というか…難儀ですねえ」
「わかってるなら助けてくれよ!」
漫才のような駆け引きに、ようやく満足したのか女性たちはスカートを翻して店に戻っていく。
「あははは、仕方ないわねー」
「またね、ガイ!今度はそっちのお兄さんも紹介してね」
「ふう…」
「モテモテですねぇ、ガイ」
「人気者なのね」
「そうじゃないって…」
「大丈夫か?」
がっくりと肩を落とすガイに笑いかけたルークの視線が、その向こうの一つの店先で留まる。
「あれは…」
街中に不似合いな重厚な装備。バチカルの兵士の物とは違うその鎧と盾は、神託の盾のものだった。
「…そう言ってるだろ?あたし達に……」
それだけではない。
その兵士を相手に話し込んでいる三人組にも、見覚えがあったのだ。




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