promised tune



「これは…」

目の前のパネルに並ぶ文字。ジェイドは無意識のうちに息を止めて見入っていた。
映し出された情報は、ルークとアッシュがただのオリジナルとレプリカの関係ではなく、完全同位体であることを示すものだったのだ。
「本物、ですか…まさか音素振動数まで同じとは…」
フォミクリーの知識を少々かじったくらいでは、ここまでの資料を用意することは出来ない。しかしこれがディストの作ったものだというのなら頷ける。
ジェイドの考案したフォミクリー理論を確立させたのはディストだったからだ。
「…レポート?」
一つのファイルに目が留まる。それはただのデータではなく、ディストが行った研究に対する報告書のようであった。
『ホドの復元と無機・有機混合の大規模レプリカ生成 〜華麗なる理論と構築法〜』と題されたその一連のレポートには、どうやらパスワードがかけられている。
「サブタイトルはともかく、気になる題材ですね」
ジェイドの指がキーボードの上で軽やかに踊る。いくつかの文字列を試すと、三つ目でそのパスワードはあっさりと解除された。
「……馬鹿ですねえ、相変わらず……」
それが自分たちのフォミクリーに対する動機―――かつて師と呼んだ人物の名前であったことに、ジェイドは苦笑した。





追い風に帆が張る。連絡船キャツベルトは広い海原をケセドニアへ向けて進んでいた。
「大丈夫ですか、ルーク」
甲板へ出ると、そこにはイオンが一人で海を眺めていた。タルタロスとはまた違った船の揺れ。久々に乗ったためか、ルークは軽い船酔いにかかっていた。
「ああ、ちょっと風に当たりに来ただけだ。イオンこそ…顔色悪くないか?」
コーラル城を出てからというもの、イオンはどこか沈んだ様子が続いている。タルタロスで話したように、もう一度イオンと二人で話す機会があれば、とルークも考えていたところだった。
どこまでも続くように思える海を、並んで眺める。潮風に乗って、イオンの呟く言葉がルークの耳に届いた。

「……あなたは…アッシュの存在を受け入れているのですね」

「え?」
「あなたが生まれた意味を、僕はまだ知りません。それが僕の作られた理由とは違うからなのでしょうか」
レプリカとオリジナル。やはりイオンを悩ませているのは、自分がレプリカであるという現実なのだろうか。
ルークには自分がアッシュに抱いていた思いと、イオンの気持ちは良く似ているように思えた。
「俺がルーク≠ノなったのは…師匠がアッシュを―――オリジナルを手元におきたいと思ったからだ。でもその結果、俺はそれまでアッシュの全てだったものを奪ってしまった…」
イオンがハッとルークを見る。
「最初は…理解できなかったんだ。俺は俺だろ?って。自分が本当は誰で、ここに居るのが間違いだなんて、信じられなかった。認めたくもなかった」
青い海と、青い空を切り分けるかのようにカモメが横切る。
「今でも、結局そう思ってる。俺は俺、アッシュはアッシュ。あいつも…そう言ってくれた」
どちらが本物かなんて、無意味な問いなのだと。自分の死を身近に感じたとき、初めてルークはそう思えたのだ。
「今俺は、俺にしか見えないものを見てる。アッシュも、アッシュにしか見えないものを見てる。俺たちは全く同じ存在ではないんだって、わかったから…俺は救われた」
(師匠と理解しあう方法だって、きっとあったはずなんだ。間に合うものなら…)
同じこの船に乗ったヴァンの姿を思い浮かべる。
よく帰ったと、髪を撫でてくれた。それは自分が敬愛していた師の姿のままで、「ただいま、師匠」と返したルークの言葉に偽りはなかった。
…それでも。
「やっぱり優しいんですね、ルーク。そして強い。…あなたが羨ましいです」
「…そんなことないさ。散々…間違ったんだ」
弱かった。無知だった。だから沢山の間違いを犯した。
自分が、イオンがこうしてここに居るということは、皮肉にもヴァンが計画をあきらめていないことの証。
彼の瞳に宿る冷たい光に、今は気づくことが出来る。
「今の僕には…祈ることしか出来ません。あなたが世界の未来を知っているとしても、それが変わっていく、変えられるものであるならば…」
いつものように、穏やかな笑みを浮かべた口元。しかしその表情は、今にも泣き出しそうに見えた。
「出来ればあなたが知っているよりも少しでも長く、同じ世界を…あなたが目指す未来を見ていられますように」
「イオン…」
気づいているのだろう。もしかしたら、その預言者としての能力ゆえに知ってしまったことなのかもしれない。
彼の命は、そう長いものではないということを。
「変えられるさ、絶対…」
ローレライが与えてくれたきっかけ。それでも先に進むのは、自らの意思なのだから。




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