promised tune


「俺はこの後別行動を取る。その前にコイツに言っておくことができたんでな…悪いがちょっと外してくれ」
「扉の外でもよろしいですか?」
「ああ、すぐ済む」
腑に落ちない顔をしながらも、ガイやティアたちが部屋を出る。アッシュはルークの膝の上にいるミュウをひょいと摘み上げると、外へ放り出してから扉を閉めた。
「お、おいアッシュ、あんまり手荒なことは…」
ルークの前まで戻ってきて足を止めたアッシュが、その顔を一瞥してフンと息をつく。
「なんて顔してやがる。それともそんなに自信がないか?ルーク=v
「アッシュ…?」
スッと伸ばされた指先が、ルークの頬を辿る。その体温までも自分と似ている、とルークはぼんやり思った。
「どうでもいい。…そう言ったのはお前だっただろう」
「え?ぐっ…!?」
そのまま顎をつかまれ、思わず目を白黒させる。すぐ近くにアッシュの双眸があった。
「偽者だ、本物だ、いい加減うんざりなんだよ。俺はもう屋敷に帰るつもりもない。その名前を名乗るつもりもない。…俺は俺だ」
その瞳に宿る強い光。映りこむ自分の、何と弱々しい表情をしていることだろう。
「お前はさらけ出し過ぎなんだ。全てを話すことが正しいわけじゃない」
ルークを離すと、アッシュは意外にも寂しそうな表情で呟いた。
「考えろ。俺たちが知っていることを利用しろ。これ以上あいつの後手に回ってたまるか」
「うん…」
互いに師と仰いだ存在。その強さも、魅力も、そしてその内に潜む狂気すらも知った。それに再び対峙する痛みは、アッシュも同じなのだろう。
「俺は逃げない…ヴァンを今度こそこの手で止める。もう手のひらの上で動かされるはがまっぴらだ」
「俺も…今度こそ、逃げたりしない。負けも、しない。アッシュと二人で世界の…その先を見たいんだ。」
顔を上げる。ルークと目が合うと、アッシュは笑った。
「当たり前なこと言うんじゃねー」
「うん、でも…約束するよ」
「約束か…」
今度こそ、と。守れなかったいくつもの約束を果たしたいと。
アッシュが過去を繰り返していることを知った時、真っ先に思い浮かんだのはそんなことだった。
(思ったよりも感傷的なタチらしいな…ふん、馬鹿馬鹿しい)
自嘲するような笑みの前に、差し出された小指。
「何だ?」
眉をひそめるアッシュに、ルークがにっこりと微笑む。
「指きり。約束って言っただろ?」
今までそんなことをルークから言ってきたことはなかった。アッシュは思わず目を逸らす。
「…指きりは嫌いだ。他のにしろ」
約束をしたことを、言葉以外の形で残すということをアッシュはしたことがない。その言葉が信じられればそれだけで十分だと思っていたのだ。
「いいだろ、それくらい。…他って何かあるのかよ」
それでも目の前で唇を尖らせるルークは、こんな複雑な状況になっているというのにまるで少年のようである。エルドラントで『約束だからな!』と叫んだ、その泣きそうな声がふと耳に過ぎる。
(くだらない…)
胸のうちでの呟きとは裏腹に、アッシュの腕はルークを引き寄せていた。
「…っ!?アッ…シュ?」
唇と唇が一瞬触れ合う。ルークは知らなかったかもしれないが、それは誓いのキス=B
指きりよりももっと強い、約束をしたことの証≠セった。
「ヴァンには気をつけろ。アイツも…違う」
「え?」
耳元でそう言い残し、アッシュがドアを開ける。
「お話は終わりましたか?」
「ああ」
短い返事を残し、さっさと外へ向かう。
「では行きましょう。…ルーク?」
立ち尽くしていたルークがようやく我に返った。
「なっ、何でもない…行こう」
立ち止まっている暇はないと、さっきアッシュも言っていたではないか。
ルークは深呼吸をすると、ミュウを抱き上げて階段を上がり始めた。




もっとも、自分のしたことに一番驚いていたのはアッシュ本人である。
コーラル城の二階、今にも崩れ落ちそうなバルコニーから海を臨む。
グリフォンの巻き起こす風を受けて、赤い髪がなびいた。
埃の積もった鏡がその部屋にあるのを知りながら、あえてそちらを向かずに通り過ぎた。
自分の表情を確認するまでもなく、頬が熱いのが癪に障る。
「……………。」
 くだらないことのはずなのに、何だろう、この感情は。
そっと口元に手をやれば、そこにはまだルークの唇の感触が残っている気がした。




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