promised tune
|
ジェイドが目を見開く。 イオンもまた、強張った顔でルークを見た。 「被験者…」 「オリジナル?どういうこと?」 訝しげなティアの問いに、ルークの代わりにアッシュが口を開いた。 「あとは俺が言う」 「アッシュ…」 苦しげなルークの表情は、その内側の葛藤をそのまま表している。 自分がレプリカであることにこだわりたくはない。しかし、それを説明しなければ先へは進めないのだ。 「ご主人様、辛そうですの…心配ですの…」 ミュウの小さな呟き。それに大丈夫だからと答えるルークの笑みも弱々しい。無理をしているのが一目でわかるような、そんな姿を見ていたくはなかった。 「…これを見ろ」 奥にあった扉を開ける。そこには、この城には場違いな空間は広がっていた。 「これは…まさか…」 中央に据え付けられた巨大な譜業装置は、世界最大の音機関研究所と言われるベルケンドのそれを遥かに超える規模。 息を飲むジェイドを手招くかのように、アッシュは部屋の中を指した。 「アンタならわかるだろう?」 機械油のような古びた樹脂の匂いと、よどんだ空気。 「…確証の無い事は言えません」 首を振ったジェイドだったが、迷いなくその装置へ足を進める。それにつられるように、皆が部屋の中へと入っていった。 「こんな物が、城の中に…」 音機関には目がないガイだが、そんな彼でも恐る恐る近づくほどの異様な雰囲気だった。 壁を走るいくつものチューブ、半透明の液体が満たされた瓶、絡み合った配線。それはどこか、生き物の臓器のようにも見えた。 「アッシュ、と言いましたね。あなたはこの装置が何のためのものか知っているのですか?」 「俺も…そいつと同じだからな」 アッシュの視線の先には、ミュウを膝に乗せたルークがいた。 封印術によって運動能力が極端に低下しているという彼を、気遣うようにティアが見守っている。 「ヴァンのヤツがこの世界のレプリカ情報を抜き取って世界そのもののレプリカを作ろうってのは夢物語じゃない。それはもう始まってる」 ルークから話を引き取ったものの、アッシュの口調もどこか暗い。ここにある機関は、実際にアッシュが自分のレプリカ情報を抜き取られたものなのだ。 アッシュがそう説明すると、苦しげとすら言える表情でジェイドは首を振る。 「しかしそれは、理論上ありえません。実際にレプリカを作成したとしても、第七音素のみでは生体を支えきれないでしょう。すぐに消滅してしまうはずです」 「だが現に、アイツは消えてない。俺もな」 七年前のことを、アッシュは静かに説明する。 マルクトに誘拐されたということになっているが、実際はヴァンの仕業であったこと。レプリカが作成されたあと、屋敷に戻されたのはレプリカの―――つまり現在のルークのほうだったこと。 その部屋に圧倒されるように、重い沈黙が満ちた。 「私は…例えばこの先フォミクリーの技術を私が提供しないようにとルークがそう言ったのだと思っていましたが…」 ぽつりと、ジェイドが呟いた。 彼が生み出した技術。その経緯も、そしてその行く末も、残念ながら血塗られたものになりつつある。 「確かに世界で一番その技術に精通しているのがアンタだとしても、それを使えるのがただ一人ってわけじゃない」 その返答はジェイドにも予想がついていたようで、ため息をつきながら頷いた。 「成る程、あの馬鹿が一枚噛んでいるわけですね…」 技術は、確立されてしまえばたやすく伝播する。アッシュは更に続けた。 「フォミクリー研究の一環と言うだけじゃない。俺たちが選ばれたのは…ヴァンが預言に縛られたこの世界そのものの崩壊を目論んでいるからだ」 「預言の崩壊…それは、ユリアの預言ということですか?」 「そうだ。その中でも…秘預言に当たるものに関係している」 「噂でしたら聞いたことがありますね。民衆に動揺を与えるような預言はたとえ詠む事が可能であっても公開されないと」 ジェイドの言葉に、イオンはため息交じりの言葉を返した。 「教団内部の混乱に乗じて、幹部の中にはその一部を知るものもいますが…口にすることはおろかその存在を公に認めることも禁止されています」 「知ってるから、モースは戦争を起こそうとする。知ってるから、師匠は預言を憎む…俺の知ってる争いの理由は、そうだったんだ」 ルークの声は小さかったが、それはこの部屋全体に反響し、鈍い余韻を残した。 どこまでも預言に忠実であることが反映への道だと盲信し、戦争すらその預言どおりに引き起こそうとするモース。 そして、預言による戦争で故郷を奪われたヴァンは、預言に導かれるがままの世界そのものを厭う。 表面上は手を組んでいるように見える二人だったが、全く違う目的を持っていた。 ぎゅっと拳を握ったティアは、カイツールで出会った兄の姿を思い浮かべる。 「兄さん…何てことを…」 ヴァンはまだそこでルークたちを待っているはずだ。彼がひそかに進めている計画を知った今、顔をあわせれば問い詰めてしまいそうだった。 「くどいようですが、あなたの言葉を信じるに足る証拠はありますか?」 アッシュは一枚のディスクを差し出す。 「ディストがこの機会で抽出した俺たちの比較データだ。アンタなら解析できるだろう」 「なるほど。お預かりしましょう」 アッシュは大きく息をつくと、まだ呆然としている一同を見回した。 |