promised tune


コーラル城は海に張り出した岬の上にあった。
かつては美しかったであろうその石造りの外壁は蔦に覆われ、扉には錆が浮いている。
イオンが手のひらをかざすように見上げると、塔の先端で鳥が不気味な鳴き声を上げていた。
「ここは先代のころにはもう使われてなかったはずなんだ。七年前に一度草木を片付けたんだが、それにしてもここまで道がついてるのはおかしいな」
「僅かですが魔物の気配があるようです。油断は禁物ですね」
ジェイドの言葉に、ガイがゆっくりと扉を開く。ひどく軋んだ音を立てて開いたその向こうには、僅かに照明が灯された薄暗いホールがあった。
「明かりが…やはり誰かいるのね」
ティアが油断なく辺りを見渡す。
ゆらゆらと頼りない明かりに映し出される室内には、積もった埃の上にいくつもの足跡を見ることができた。
「!」
カツン、という硬い音。
手すりの上にふっと現れた人影を、身構えながら見上げる。
「来たか…」
そこに立っていた男は、イオンたちを見渡して呟いた。
後ろへ撫で付けられた赤い髪が、明かりを受けてまるで燃えているようにも見える。
「ルーク様♪…じゃない?あれぇ?」
アニスの声がホールに反響する。
「ついて来い」
「ちょ、ちょっと待って!ルークはどこにいるの?」
言うが早いか踵を返すその姿を、ティアたちは慌てて追いかけた。見失わないように早足で歩きながらも、完全に追いつくことはせずに距離をとる。
「あいつも…六神将か?」
油断なく背後に気を配りつつ最後尾から問いかけるガイに、ジェイドは何事か考え込んだまま口を開かない。
「しかし、あの顔…」
戸惑いを含んだ呟きに答えたのはティアだった。
「ルークにそっくりだったわね…」
部屋の暗さでそう見えただけなのかもしれないが、その顔立ちや髪の色、体格までルークに似ている気がしてならなかった。
「イオン様、大丈夫ですか?」
「ええ、気にせず、進んでください…っ」
書斎の奥の小さな扉をくぐり、螺旋階段を下りる。
肩で息をするイオンを背負うほうがいいかもしれないとガイが考え始めた頃、急に前を行くジェイドが立ち止まった。ぶつかりそうになって慌てて足を止めたイオンの顔に、笑みが浮かぶ。

「ルーク!」

一際重厚な扉の前。そこに座っていたのは、今度こそルークだった。
「みんな…」
立ち上がったルークがわずかによろめくのを、案内してきた男が支える。その足元に、ミュウの姿もあった。
「あ、危ないですの〜」
真っ先に駆け寄ったのはガイだった。ミュウを踏みかけ、慌てて足を上げる。
「わ、悪い」
「ガイ、無事だったか?」
「ルーク、それはこっちのセリフだ!心配したんだぞ」
「ふむ…見たところ大きな怪我はないようですね」
あなたに何かあっては困ります、とジェイドは冷たいとも取れる呟き。しかし見上げると、眼鏡の奥のその瞳は優しく細められていて、ルークは驚いた。
(何か…懐かしいな…)
もう、こんな風に仲間達と会えることはないだろうと思っていた。ローレライを解放するためにエルドラントに残った、あの時。
ルークの身体は既に音素の乖離寸前であり、自分がそう長くは無い事を悟っていたからだ。
「うん。心配かけてごめん。」
その言葉に、ガイは目を丸くする。
「おいおい…お前がそんなに素直だと、明日雪でも降りそうだな」
「え?そうか?」
「ミュウも無事でよかったわ」
「はいですの!ご主人様のおかげですの!でもご主人様、封印術をかけられちゃったんですの…」
みゅうぅぅ、と耳を下げるミュウの様子には、しょんぼり、という言葉がぴったり当てはまる。
「大丈夫?ルーク」
「ああ、何とか…最初は本当に腕すら上がらなかったんだけどさ。もう普通に歩けるようになったし」
話がひと段落したのを見計らって、イオンの横でアニスがすかさず黄色い声を上げた。
「きゃわ〜ん、ルーク様ぁ☆ご無事でアニス嬉しいです♪」
「ありがとう、アニス…イオンも、大丈夫か?」
「ええ、また貴方に助けられました」
「そんなこと…」
そのままいつまでも再会を喜び合っていそうな雰囲気に、横から苛立ったような声がした。

「…そろそろ本題に入ったらどうだ」

声の主、ルークの傍らに立つ男―――アッシュに視線が集まる。
「そうですね」
ジェイドが肩に降り積もっていた埃を払う仕草をしながら、一歩進み出る。
「ルーク、カイツールではなくここへ私たちを呼んだのには、理由があるのですね?」
「ここは…俺が生まれた場所なんだ」
「それはおかしいぞ、お前はバチカルで生まれたって確か…」
ガイの言葉を遮るように、ルークが顔を上げた。
「…この前、俺の記憶について話したとき…言ってなかった事なんだけど」
「それは彼に関係があることですか?」
何か心当たりがある様子のジェイドの言葉に、そっと頷く。
「紹介が遅れたけど、こっちはアッシュ。…似てるだろ?」
「そうね。双子と言ってもいいくらいだわ」
ティアが二人を見比べる。似ていて当然だ。何故なら…
「アッシュは俺の…」

「俺の、オリジナルなんだ」

「!」




BACK / NEXT