promised tune


宿にガイとティアが姿を見せたのは、その夜遅くになってからだった。
六神将や神託の盾兵が待ち受けていてもおかしくないと、通りすがりの馬車の荷台に潜むという手段まで使って入ったセントビナーの街だったが、予想に反して街は普段通りの様相だった。
宿の一室、疲れきった表情の二人は、ジェイドたちに首を振る。
「…そうですか。しかし死体も見つからなかったのですね?」
「ああ。だから、きっとどこかで生きてくれているはずだ…六神将に攫われていなければ、の話だが」
溜息交じりの声は涸れかけ、掠れている。
ルークを探し、呼び続けたのだろう。自分が魔物に見つかる危険性が高くなるにも拘らずそうして探し続けたということは、ガイにとっていかにルークが重要なのかがわかる。
「マルクトの基地にも立ち寄った様子はないそうです。」
「マルクトの?でも…キムラスカの人間であるルークがそんなところへ立ち寄るはずがないのでは…」
ティアの言葉はもっともだったが、ガイは苦笑した。
「ルークは…ずっと屋敷の中しか知らなかったんだ。今の二国間の緊張状態なんて、わかっちゃいないかもしれないからな…」
おや、という顔をしたジェイドが振り返った。
「ティア、ガイには話していないのですか?」
「ええ…ひとまず彼を探すのに専念していましたので…」
「何だ?ルークがどうかしたのか?」
その会話に不振そうな表情になったガイに、ジェイドが向き直る。
「これは、タルタロスで彼が我々に話したことですが…」
機密事項には触れぬよう、ジェイドはルークの記憶≠ノついて、かいつまんで説明した。
「そんな馬鹿な…俺は小さい頃からアイツを知ってるけど、未来の記憶なんて事聞いたことないぞ」
むしろ十歳までのことは記憶喪失になっているはずなんだ、とガイは首を捻る。
「その記憶を持ったのは、私と共に屋敷から飛ばされたときだと言っていたわ…超振動と何らかの関係があるのかしら」
「未来って事は…ユリアの預言を知ってるって事なのか?」
思わず天井を見上げる。その向こうにある夜空、浮かぶ第七譜石。ユリアの残した未来の預言。
「いえ。話を聞く限り、彼自身の記憶であるようですね。だから彼の持つ情報は自分で見た、聞いたことの範疇を超えてはいません」
ふと、アニスが眉を寄せる。
「というか、大佐はルークの話を信じてるんですかぁ?」
「おや、いつの間にか様≠ェ取れていますよ、アニス」
ジェイドは茶化したかと思うと、いきなり真顔に戻って続ける。
「ひとまず様子見といったところでしょうか。前にも言ったとおりすべて鵜呑みにするわけにはいきませんが…彼がどういった理由にせよ、我々の機密事項の一部に触れていることは事実です」
「私は…信じていいと思うわ。兄さんのことも…」
ティアが呟いた。どこか思いつめたようなその響きを癒すように、イオンが柔らかく微笑む。
「僕も信じますよ。ルークが嘘をついているようには思えません」
「微妙ですよぉ〜疑うわけじゃないんですけど、なんか動機っていうか、それでどうしたいのかわからないんですもん」
「ガイ、あなたはどう思いますか?」
ベッドに腰を下ろし、眉根を寄せて会話を聞いていたガイは、飛び出してきた自分の名に顔を上げる。
「え?いや、そう言われてもな…聞いた限りじゃ、俺の知ってるルークとは随分印象が違うんだが」
その口からは大きな溜息が漏れる。
「今はとにかく、ルークが無事でいてくれたらいいと思う。それだけだ」
「そうですね…」
誰からともなく、窓の外を見る。暗い空に浮かぶ雲は、昼間よりもなお重く見えた。




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