promised tune
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「サンダーブレード!」 ジェイドの強烈な技の一撃で、グリフォンが倒れる。それを盾にしたリグレットも、肩で息をしていた。 「教官!もうやめてください!」 部屋からじりじりと移動したティアたちは、ラルゴたちを追うように甲板へ出ていた。周囲には倒れた魔獣や兵士が転がり、時にそれすらも利用しながら戦いは続く。 「さすが『死霊使い』、やり合い続けては分が悪い、か…」 舌打ちをするような調子で呟いたリグレットの頭上で、場違いなほど陶酔しきった声が響いたのはその時である。 「おやおや〜、なかなかいいザマですね、リグレット」 「お前か…」 空中に浮かぶ椅子。音機関で出来たそれに座っていたのは、仰々しいほど過剰に襟を飾った細身の男だった。切りそろえられた銀髪の下から、眼鏡をきらりと光らせる。 「私がいなくては始まらないようですからね。この薔薇のディストが!貴方がたに美しく引導を渡してさしあげましょう」 足を組み替えて腕を開くジェスチャー。圧倒されるというよりはあきれ返って、一同は宙を見上げた。 「誰かと思えば…」 溜息交じりのジェイドの呟きに重ねられたのは、短い号令。 「…退くぞ!」 「さあ御覧なさ…ってちょっと!せっかく私が来て差し上げたと言うのに何ですか!!」 まだ飛ぶことのできるグリフォンにつかまり、散り散りに退散する六神将たち。その後姿にひとしきり罵声を送ったディストは、ぜえぜえと荒く息をついて肩を震わせる。 「むきぃぃぃぃぃぃ!!」 自棄ともいえる動きで追うその姿を、ぽかんと見送ったティアが我に返る。甲板には血溜まりと、動かぬ魔獣や兵士の姿がいくつも残されていた。 「怪我をした人は?」 見渡せば、肩を深くえぐられたガイがうずくまる姿が目に飛び込んでくる。ティアが駆け寄ると、肩を抑えたままガイは思わずあとずさった。 「大丈夫、私は敵じゃないわ」 「え?いや、その…すまない、そういうわけじゃないんだが…っ」 痛みに呻くガイに、癒しの譜術が淡い光となって集約する。 「助かったよ。ありがとう」 じっとその顔を見たティアが、ふと呟いた。 「あなたは確かルークの屋敷にいた…」 「俺はガイ。あいつの屋敷の使用人さ」 呼吸を整えたガイが、思い出したようにハッと顔を上げる。 「イオン様、ご無事ですか?」 「ええ、僕は平気です。しかしルークの姿が…」 イオンに話しかけるジェイドを見つけ、ガイは駆け寄る。 「そうだ、ルークを助けに戻らないと。あんた…見た感じこの船の責任者だろ?今すぐ俺を下ろしてくれ」 ラルゴとの戦いのさなか、タルタロスから転落した、と。それを聞いた一同の顔が強張る。 「相当な高さだわ。普通では…怪我くらいじゃすまないかもしれない」 「戻れますか?ジェイド」 「…難しいですね」 腕を組んだジェイドが向かったのはブリッジだった。後を追って覗き込んだアニスが、凄惨を極める室内に顔をしかめてイオンを立ち入れまいとする。 「なぜです?大佐」 表情を変えずに入っていったティアの後にガイも続く。ジェイドは事切れた艦長の手をそっと中央の音機関からどけ、その下にあったモニターに目を落とした。譜業のプログラムと思しき文字の羅列で埋め尽くされ、点滅しているその画面で辛うじてティアが読み取ることが出来たのは、制御異常≠ニいう文字。 「恐らく機関の一部が破壊されたことが原因でしょう。暴走…とまでは言いませんが、目的地の設定が取り消せない状態になっています」 「げげっ。それって…カイツールまでノンストップって事ですかぁ?」 入ろうとするイオンを押し止めながら、アニスが上げた声。それを聞いたガイが、問答無用で飛び降りようとする。 「ガイ!危ないわ」 「放っておく訳にも行かないだろう!俺は…ルークが死んだなんて思っちゃいない」 タルタロスに乗り込むときは、兵士が乗り込もうとしていたグリフォンを奪い取って来たのだと言う。しかし船内に飛ぶことの出来そうなグリフォンは残っておらず、降りるにはタルタロスが止まるのを待つより他になさそうであった。 「落ち着いてください。強制的に止める手立てがない訳ではありません。」 ジェイドの視線はモニターに注がれたまま。あくまで静かな口調で続ける。 「しかし、そうなると今度は再起動まで一日は要してしまうでしょうね」 この平原の真ん中でタルタロスが止まっていては、再び六神将に狙われる危険性も高くなる。もちろん教団はイオンの奪還を諦めてはいないだろう。兵力の減った状態で迎え撃つのは厳しい。そう説明するのを、唇を噛んでガイは聞いていた。 「…それでも構いません。止めてください」 「イオン様…」 こうしている間にも、タルタロスはルークの落下地点から離れ続ける。目的地であるカイツールはさらに遠く、ルークが怪我をしているのだとしたらとても往復している余裕はなさそうだった。 「わかりました。では…何かにしっかりつかまっていてください」 ジェイドは伝声管の蓋を開け、息を吸う。 「死霊使いの名によって命じる」 その声は、艦内全てに響き渡った。 作戦名《骸狩り》…始動せよ ガクン、と激しい揺れが何度か続き、船体が震える。まるで唸り声のような音を立てて、タルタロスは急停車した。 「これは…」 「タルタロスの非常停止機構です。復旧にはしばらく時間がかかりますが…その間にルークが落下したはずの場所へ向かうことは出来るでしょう」 そのハッチが現在唯一の脱出口です、とジェイドが示す。 「ああ、ありがとう」 「ここから南西に向かうとセントビナーという町があります。怪我がなかった場合、そちらに行っていることも考えられますね」 ガイが頷いた。その前に、ティアが進み出る。 「ガイ、私も行くわ」 ティアだけではない。イオンもまた、非常用ハッチから降りようと手すりに手をかける。 「僕も行きます」 「イオン様!だめですよぉ、もし六神将と鉢合わせちゃったら…」 慌てたアニスがその袖を掴み引き止めるものの、イオンは真剣な顔でアニスを見つめる。 「アニス、君も一緒に来てください」 「え?それはもちろん、イオン様が行くなら…ってそもそも行かないで下さい!」 「アニスの言うとおりですね」 「ジェイド…」 そんなやり取りが行われている間に、ティアはハッチへ続く梯子を降り始めていた。ティアとの距離が十分に開くのを確認して、ガイも身を翻す。 「じゃ、俺は行くからな!」 「ええ、お気をつけて」 「ジェイド…ルークは僕を助けてくれたんです。今度は僕が…」 諦めきれないといった表情のイオンが取り残される。ジェイドは首を振ると、きっぱりと告げた。 「そのお気持ちは結構です。しかし…貴方とティア達では体力に差がありすぎます。同じスピードで着いていくことは難しいでしょう」 それでは結果的にルークにたどり着くのを遅らせてしまいます、とジェイドが諌めると、イオンは暗い顔でうつむいた。 「それに、ルークがそのまま同じ地点にいるとは限りません」 「!」 「彼は我々を知っていると言いました。現に、知りえるはずのない機密事項まで彼は知っていた。それならば、我々の合流地点を知っていてもおかしくはありません」 「では…」 振り返ったジェイドが、イオンの服の裾を掴んだままのアニスににっこりと笑顔を向ける。 「アニス、はぐれたのがあなただったとしたら、どこに行きますか?」 「はーい。まずは、セントビナーのマルクト基地へ向かいま〜す。それでダメなら、カイツールですね、大佐」「…というわけです。幸いここからセントビナーは遠くない。ガイに言ったこともありますし、我々は一旦そちらへ向かいましょう」 「はい。わかりました…」 |