promised tune
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ビィーッ!ビィーッ!ビィーッ!… 突然耳障りな音が部屋中に鳴り響く。壁に据え付けられたランプが、音にあわせるように赤く点滅していた。 「ブリッジ!どうした?」 思わず耳を押さえたルークの横を駆け抜け、ジェイドが伝声管を手にする。その向こうから耳をつける必要のないほどの大声で聞こえてくるのは、タルタロスに魔物の集団が迫っているという緊迫した情報だった。 「敵襲…!?」 立ち上がったティアがアニスと共に、イオンを守るように部屋の中央へと移動する。 『砲撃用意!』 刻々と伝えられる情報に耳を傾けながら、ジェイドの表情はどんどん厳しくなっていった。 『…何っ!ライガがグリフィンから降下…うわぁぁっ!?』 伝声管の向こうの悲鳴。しかしその声はすぐに途切れ、気味の悪いノイズ音が流れるだけの伝声管をジェイドはゆっくりと手放す。 「いけませんね…」 緊張したようなその声からも、非常事態であることがわかる。ピリピリと痺れるような小さな振動が足元から上がってきたかと思うと、それに続いて立っていられないほどの揺れがルークたちを襲った。 「うわっ…!」 「砲撃…じゃないようね…」 「まさかっ、あのライガを追って…?どうしようルーク様ぁ」 「…違う!イオンを守ってくれ!」 (六神将…!) 迂闊だった。世界の崩壊という大きな危機を話すことに頭がいっぱいで、こんな身近にある危険を伝え忘れるなんて。 「ルーク!一人で出ては危険よ」 「ご主人様、ミュウも行くですの!」 ティアの声を後ろに聞きながら、ルークは部屋を飛び出した。ミュウが必死で肩にしがみついている。 「おらぁ!」 甲板へ上がる階段のすぐ下。見張りの兵に向けて、大鎌を持つ男が目に入る。その黒衣の襟からか、それともその野性的な戦い方からなのか、黒獅子ラルゴ≠ニ呼ばれるその大柄な男は容赦なく鎌を振るった。 「ヒッ…ぐわっ!」 構えた剣で防ぐ間もなく、切り裂かれた首から血が迸る。短い叫びを残して倒れ伏すそのマルクト兵士は、二度と立ち上がることはなかった。 「やめろ、ラルゴ!」 「ほう…俺を知っているか、小僧」 戦闘訓練を受けているはずの者さえ圧倒するその殺気は、空気を震わすほどのプレッシャーとなってルークに襲い掛かる。しかしその目の前に立ちはだかったのは、別の神託の盾兵だった。 「ラルゴ様、お急ぎください!」 ルークが抜いた腰の剣は、神託の盾兵騎士団の物よりも随分貧弱である。 「く…邪魔っ、するな、よっ!」 刃と刃がぶつかり合う鈍い音。一歩も引かず、ルークは相手の剣を跳ね除けた。 「退いてくれっ!」 一般兵とはいえ、相手の殺気は本物である。加減をすればこちらが殺されかねない。歯を食いしばって神託の盾兵を切り倒したルークの上に、フッと影が差す。 「悪いがお前と遊んでいる暇はない。導師イオンを渡していただこう」 ルークに迫る鎌。空気を切る音が不気味に近づく。 (マズイっ…!) 冷たい戦慄…恐怖が背中を駆け抜ける。スローモーションに思える世界の中、それを弾き返したのは、鞘と交差させた細身の剣だった。 「!!」 「ガイ様、華麗に参上♪ってな」 「ティア、イオン様をダアトへお連れすることが最重要だというのに…何故マルクトと手を組むようなまねをする!」 「教官…私は、導師イオンの御意思に従っているだけです!」 同じ頃、ティアたちの前に立ちはだかっていたのは、彼女の元教官でもあるリグレットだった。ジェイドの繰り出す槍を銃身で流しながら、譜術の詠唱をしようとするティアの足元に容赦なく弾を打ち込む。二人を相手に互角に戦うその隙のない姿に、イオンを庇いながらもアニスは部屋からの脱出ができないままでいた。 「導師イオン、あなたが行方不明になり教団には不安が渦巻いております。どうぞお戻りください」 「行方不明?イオン様が?」 こう着状態の中、リグレットが発した言葉にティアは思わずイオンを見る 「違います、僕は…モースの軟禁から逃れてきました。それを教団では行方不明ということにしたのでしょう」 「モース様はイオン様のお体を心配されてのこと。ダアトにて話し合いの席を持てばご理解いただけるものと仰っています」 「それに僕には、まだやらなければならないことがあるのです。今帰るわけにはいきません」 イオンがリグレットに向ける視線に迷いはない。 「仕方ありません…力ずくでも、ご同行願います」 小さな溜息と、銃の撃鉄を起こす音。それが戦闘再開の合図だった。 「外へ出ようぜ。そのほうが戦いやすいだろう?」 階段を顎で指すルークに、ラルゴもガイも不審そうな顔をする。 「ルーク、なんでわざわざ相手に合わせるようなことを…」 ガイの言うとおり、狭い廊下では十分にその鎌を振るうことが出来ないぶんルークに有利なはずである。それはルークにもわかっていた。 (でもこいつさえ引き離せば…イオンはジェイドが守ってくれる) その強さは、ルークが何度も目にしてきた。譜術も体術も、並の兵士ではとても太刀打ちできないレベルだ。 「なかなかの自信家のようだな…いいだろう」 値踏みするようにルークを見ていたラルゴが頷き、さっと階段へ飛び込む。相手が待ち構えるのを防ぐため間髪入れず階段を駆け上がったルークは、空を切り上げるように甲板へ躍り上がった。 「はあっ!」 「上等だ、容赦なく行くぞ!」 身体に、実践の感覚が徐々に戻ってきているように感じていた。剣の構え方、相手の攻撃への反応、技の撃ち方…まだ秘奥義と呼べるような技こそ打てないものの、動きは見違えるほど滑らかになってきている。 「おい…ちょっと見ない間に、どうやってそこまで成長したんだ?」 ルークの戦い方を見て、ガイが目を丸くする。それだけではない。ルークを、その刃を包むのは第七音素の光だった。 (この力は…?) 「閃光墜刃牙っ」 剣を振ると、超振動に似た強烈な波動が弾ける。本来ルークは剣術が中心であり、相手の音素を利用するのでなければ技以上の力が出ることはない。しかしこの時ラルゴを襲ったのは、イオンが放つダアト式譜術にも匹敵するほどの衝撃だった。 「ぐおっ…!?」 大鎌でかろうじてそれを弾いたラルゴは、戸惑ったような表情でルークを見た。 「小僧お前、譜術師か!」 鎌を持つ手が痺れていた。それを見透かしたかのように、素早いガイの斬撃が続けざまにラルゴに降りそそぐ。ガイが凄腕の剣士とはいえ、手を抜ける相手ではない。加勢しようとしたルークと、鎌の刃を避けて身体を捻ったガイの視線が一瞬交差した。 「ルークっ…目が…」 光を宿した金の瞳。それに驚いたガイの反応が一瞬遅れる。 「危ないですの!」 ぴょんと前に飛び出したミュウがラルゴの顔に向けて炎を吐いた。 「うおおぉぉぉ!」 「…!」 強烈な蹴り。悲鳴を上げる間もなく、ミュウは手すりを越えて船外へ吹き飛ばされそうになる。 「ミュウ!」 思わず手を伸ばしたルークに生まれた、隙。 「ちっ…ここで使うことになるとはな…」 ラルゴが放り投げた小さな箱が、ルークの頭上で光を放った。 「っ…!?」 (これは…封印術…!?) 激しい眩暈。まるで重りでもつけられたかのように、手足が動かなくなる。バランスを崩したルークの身体は、ミュウと共にそのままタルタロスの外へ。 「!!」 ガイが伸ばした腕は、その服に触れることも出来ない。 「よそ見している暇はないぞ!」 「くっそぉぉぉ!」 背後に迫る刃を剣の鞘で弾き飛ばす。 「ルーク!」 ガイの呼びかけにも、答える声はない。灰色の空が虚しく風だけを返した。 |