promised tune



***


「作戦変更だと?」
大柄な男は、自分の身長より更に大きな鎌を肩にかけたまま訝しげに振り返った。
波を受けるたびに揺らぐ船室は、外の晴天など知らないかのように暗い。
「導師イオンを連れてくればいいんだろう」
傍らに置いていた剣を取り、アッシュは立ち上がった。
「半日もあればいい。俺だけで十分だ」
「待てアッシュ!閣下のご命令に従うのが我々の務めだ。勝手な行動は慎め」
立ち去ろうとしたアッシュを阻むかのように、凛々しく金髪を結い上げた女が甲板への出口に立ちはだかる。その手に握られれた銃はアッシュに向けてこそいないものの、口調はその足を止めるのに十分なほど鋭い。
「ふん、余分な兵力を消耗するのがその『ご命令』か?」
「何だと…?」
揶揄するような言葉に、キッとその眉がつり上がる。
「よせリグレット。ここで揉めてる場合じゃないだろう」
釜を持った男―――ラルゴが呆れたように溜息をついた。
「マルクトの最新の戦艦だ。アッシュ、お前一人で行って破れる装甲じゃない」
「……何でもいいよ、面白ければさ」
椅子に腰掛けたままのシンクが欠伸をする。力の抜けた声に促されたかのように、リグレットは銃を腰のホルダーに納めた。
「アッシュ…お前は少しここで頭を冷やせ。行くぞラルゴ、アリエッタ」
「おう」
「はい…」
甲板から聞こえてくるのは、巨大な羽ばたきの音。グリフォンと呼ばれるその魔物は人だけではなくライガさえもその背に乗せ、アリエッタが腕を上げたのを合図に一斉に飛び立った。

「へえ、凄いじゃないか。アンタの言ったとおりになった」

静けさを取り戻した船室に、笑いを堪えたような声が響く。
立ち上がって伸びをしたシンクは、壁にもたれてアッシュを見た。
その前を通り過ぎ、アッシュは甲板に向かう。そこには飛び去ったはずのグリフォンが一羽、じっとうずくまっていた。
アッシュが声をかけると、ばさっと音を立てて翼を広げる。
「で?本当にそんな馬鹿なこと≠オに行く気なの?」
「…お前はどうする?シンク」
グリフォンの背に乗り、アッシュは振り返った。
シンクは持ち上げていた仮面で顔の上半分を覆うと、口元ににやりと笑みを浮かべる。
「せっかくだから、少し付き合ってあげるよ。…楽しいなんて思ったのは、久々だからね」
飛び上がったグリフォンは、タルタロスとは反対の―――南東の方角に向けて力強く羽ばたいていく。
セントビナーを眼下に通り過ぎ、さらに南へと。
やがてどこか異様な雰囲気に包まれた街が目に飛び込んでくるころ、ふとシンクは声をかけた。
「そうだ…アッシュ、一つ教えてよ」
「何だ?」
風を切る音に負けないように、話すと言うよりは叫ぶと言うほうが近い。
「アンタが珍しく必死になってる、その恋人=c名前は?」
少し皮肉にも聞こえるその声に、アッシュの眉間に皺が寄る。
「それとも紹介してくれる?」
まるで先程自分がリグレットにしたように、わざと怒らせようとしているかのような言葉。しかしシンクの場合は、これがいつも通りでもある。
「アッシュ?」
「恋人なんかじゃねえって言ってるだろうが」
振り向きもせず言い放つ。
「ふうん?じゃあ何?」

「…あんなヤツは屑≠ナ十分だ!」

不機嫌そうに呟く。
「アッシュ…嘘をつくとき右目を細める癖、直したほうがいいんじゃない?」
「何だと…?」
グリフォンが一瞬バランスを崩す。
アッシュの表情を覗き込んで、シンクは楽しそうに笑った。


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