promised tune


「ジェイド…」
「…まだ、死んではいないようですね」
イオンの横に立ったジェイドは、倒れ伏すライガをちらりと見て言う。
「…この状態でも、タルタロスへ運ぶことは出来ませんか?」
「リスクが大きすぎます。本気で暴れられでもしたら、いくらタルタロスとはいえ障壁を破られかねません」
イオンの言葉に、ジェイドが首を振ったときだった。

…響け、世界の音よ…

「ルーク!?」
ガクン、と膝をつく。
(っ…!)
激しい頭痛。体中から力が抜けるような、浮き上がっていくようなその感覚には覚えがあった。
「下がりなさい!一時的に麻痺させているだけです、近づいても良い状態ではありません!」
ふらふらと来駕に歩み寄るルークに、ジェイドの鋭い声が飛ぶ。
引きとめようとしたミュウが、何かに弾かれたように放り出される。それをティアが慌てて受け止めた。
(ち…違う、俺の意思じゃない…!)

我を受け入れよ…焔を灯すのだ…

「これは…第七音素?」
「どうする気なのですか?ライガがそれを拒む以上、あなたが言うようにタルタロスに乗せることは不可能です」
ジェイドの言葉が遠くからの呼びかけのように小さく聞こえる。
「それとも…止めを刺す気なの?」
ティアの問いにルークは首を振ろうとした。しかし、指先一つ自分の意思で動かすことは出来ない。
(こ、れは…ローレライ…?)
ゆっくりと、ルークの腕が上がる。その指先は、ライガの額に向けられていた。
指先に集まっていく力を、ルークは必死で抑えようとする。

灯すのだ…

(ローレライ、やめろ!!)

同じ後悔を繰り返したくない。そのために、自分はここへ戻ってきたはずだった。
それなのに、どうしてこの手でそれを崩すようなことをしなければならない?
(やめろ…っ!)
湧き上がった怒りと共に、強烈な痛みが左目にはしった。
「ぐうっ!?」
ドクン、ドクンと耳の奥で自分の鼓動が聞こえる。
それだけではない。ノイズのように聞こえていたもの全てが、少しずつ意味を持っていく。
「なんだ、これ…」
目を開く。手を伸ばせば触れるほど近くで、ジェイドの譜術のダメージから回復したのか、唸り声を上げたライガがゆっくりと身を起こした。
「危ない、ルーク!」
「待ってください…あれは…」
『何者ダ…』
「え…?」
それはルークにとって、今まで体験したことのない感覚だった。
ライガの言葉が、ミュウを通さなくとも理解できる。それだけではない。周囲の木や、草、岩さえも、音素を介して直接ルークの中に声を伝えてくる。
それは、世界の声。
真っ直ぐライガを見ると、女王は耳を伏せるようにしてじっとルークのほうをうかがっていた。
子供を守りたいという思いと、強いものへの服従の念が、その中で揺れ動いている。
「タルタロスへ乗ってほしい。ここには、いられないんだ…」
ルークの言葉に、ライガは自分の巣を見る。もうすぐ生まれてくるはずの卵には、譜術の衝撃かひびの入っているものもあった。そして…ライガは自ら、その卵を割った。
「…!」
ティアたちが息を飲む。それは何も知らなければ、ただの野蛮な行為に見えただろう。
『我ガ仔ラヲ…渡スワケニハユカヌ…』
呻くような、低い叫び。それは深い深い悲しみをルークに伝えた。
「連れて行ってくれるだろう、ジェイド」
「…わかりました。ただし、あなたたちが一緒に来ることが条件です」
ジェイドの言葉に、ルークは小さく頷いた。後ろを向いたまま、目元を拭って。
「行こう。」
「ルーク…その目は…!」
顔を上げたルークの左目に、視線が集まる。それは先程までの翡翠色ではなく、輝くばかりの金色に染まっていた。




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