promised tune
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ビリビリと痺れるような咆哮が、森の奥の洞窟にこだまする。 ゆっくりと身体を起こした巨大なライガは、その後ろに並ぶ卵を守るように一歩進み出た。 「ミュウ、あいつは何て言ってる?」 ルークの腕に抱えられた青いチーグルが、怯えたような声を上げる。 「卵が孵化するところだから…『来るな』と言ってるですの。ボクがライガさんたちのお家を間違って火事にしちゃったから、女王様、すごく怒ってるですの……」 「そうか…」 ルークの予想通り、チーグルの長老から聞いたのは森の奥に住み着いたライガのために食物泥棒をするしかなくなっているという話だった。 そうしなければ、チーグルが食べられてしまうと。 ライガと交渉すると言うイオンと共にやってきたルークたちだったが、気の立っているライガはルークたちの呼びかけに全く耳を貸そうとしなかった。 唸り声に、ミュウがビクッと身体をすくめる。 「ぼ…『ボクたちを殺して、孵化した仔供の餌にする』と言ってるですの……!」 「戦うしか…ないのですか?」 呟くイオンを押し下げるように、ティアがナイフを構えて前に出る。 「来るわ。……導師イオン、ミュウと一緒におさがり下さい」 「待ってくれ、ティア!」 一触即発の雰囲気に声を上げたのはルークだった。ライガを刺激しないようにゆっくりと、イオンを見る。 「あのさ…アリエッタって、知ってるよな?」 ライガの唸りが一瞬止まる。興味を引いたのだろうか、いつでも飛びかかかれるような低い姿勢のまま、ライガはじっとルークを観察しているようだった。 「…以前…僕の導師守護役だったアリエッタのことですか?」 いつも寂しそうにぬいぐるみを抱いた少女。 ルークはこのライガの女王が、彼女にとっては母親なのだとイオンに告げた。 「そうですか…あなたはアリエッタと知り合いなのですね」 「いや…そうじゃないけど…」 むしろ、憎まれていた。出合ったのは、彼女の母親の敵としてだったのだから。 ライガをこのまま放置すれば、チーグルどころかエンゲーブや近隣の町に被害を及ぼしかねないということはルークにもわかっている。 「それでも…」 ギュッと拳を握る。 どうして大切なものを奪ってしまうのだと。耳の奥には、彼女が振り絞るように言った悲鳴のような言葉がまだ残っているように思えた。 「ミュウ、伝えてくれ。アリエッタのためにも、ここを立ち去ってほしいって」 返されたのは、低い唸り声。 「みゅう…『子供たちを置いて退くことはできない』って言ってますの」 ルークは唇を噛む。 「あなたは…優しいんですね」 「え?」 イオンの穏やかな笑顔。しかしそれはどこか哀しげに見える。 「他に何か策があるのですか?」 「策…」 (アッシュと連絡をとることさえできたら…アリエッタを呼べるかもしれないのに…) もう何度も呼びかけている。しかし強く思い念じてみても、口に出して見ても、それは空しく木々のざわめきに消えるだけだった。 「タルタロスで、ライガを運べないかな」 「このライガを?」 住んでいた森を焼かれ、この森へとやってきたライガ。他にその居場所を見つけることができたなら、殺さなくてもすむのではないか。 「…ライガは人になつくような魔物ではありません。危険です」 難しい表情でイオンは首を振る。 苛立ったようにライガが吠えた。 「『お前たちがいなくなればいい』だそうですの…」 「ルーク、あなたの気持ちはわかるけれど、守るべきものを間違えないで」 「どうしても…助けられないのか?」 「それは優しいのではなく、甘いと言うのです」 「!!」 響いたのは、洞窟を揺らすほどの雷鳴と、ライガの咆哮。 いつの間にか後ろに立っていたジェイドが放った、強力な譜術の一撃だった。 |