promised tune




「お前をそのままコンタミネーションで取り込む、だと!?」
「うん」
アッシュは思わず考え込む。
音素学をかじっただけのアッシュでも、その危険性は十分に理解できる。
全ての音素と元素を融合させ、そのあとで再び分離する。
通常の生体ではまず成功する可能性はないことである。
「だめ、かな…」
「それは…大爆発(ビッグバン)と何が違う?」
「俺とアッシュが…もう一度別の存在になること、かな…」
(一理ある、か…)
その可能性を必死で考える。
他にルークが助かる方法がないならば…自分の危険くらいどうということはない。
「俺を信じて、くれるか?」
ルークが弱弱しく微笑む。
「当たり前のこと聞くんじゃねぇ!」
アッシュはルークの横に腰を下ろす。
ルークを自分に寄りかからせるようにすると、しっかりと引き寄せた。
「目を閉じてろ」
以前封印術(アンチフォンスロット)を解いたときのように、二人を同調させる。
今度はもっと深く。同化するほど近くへ。
「アッシュ…」
「喋るな。ゆっくり呼吸していろ」
「うん、でもこれだけは言いたくて……ありがとう」
「っ……それは、成功してから言え」
指を絡め、手を握り合う。
アッシュはルークの呼吸を聞きながら、これまで意識的にずらしていた波長を合わせていく。
もっと近くに。
もっと。
溶け合うほど近くに。
エルドラントが時折激しく揺れるが、二人はそれに気付かないほど、ただ互いの存在に集中していた。
(アッシュ…あったかいな…)
ルークの中に不安はなかった。
二人が本当に「同じ存在」であるのなら、恐らくそのまま二度と分離することは無い。
もしかしたら、拒絶反応が出てしまうかもしれない。
精神崩壊を招くほどの、相手の存在の拒否…
だけど。
お前はお前だと言ってくれた。
自分の存在を認めてくれた。
(だから、アッシュを信じる)
名前を呼ぼうとするが、もう声にならない。
ただアッシュの掌から伝わる鼓動を聞いていた。
ぽつり、と金色の光が生まれる。
それはルークの左目から溢れ、やがて全身を包む。
アッシュとルークの身体がすべて光の中に消えると、やがて辺りは強烈な光に包まれた。



***



「ふ…ふふ…」
その墓石があるのは中庭に当たる小さな広場だった。
壁に囲まれた中には夕暮れの日差しは差し込まない。
遥か頭上に、オレンジから紫へ変わろうとしている空が丸く見える。
譜術でともされた淡い灯り。
墓石の周囲に敷き詰められるように咲いた、背の低い花。
その花に埋もれるように、横たわる影。
リグレットの口元に、笑みが浮かぶ。
腕はすでに千切れかけ、傷口からは死に至るほどの血が流れ出ていた。
「後…悔…?」
ぜいぜいと鳴る喉からさらに血の塊を吐き出しながら、それでも彼女は微笑む。
「あの方に…自らに…恥じないように、生きたの、だから…」
床に紅い軌跡を残しながら、這うようにたどり着いた扉の先。
不思議な光の舞う小さな中庭に、二つの墓標が立っている。
一つはこの街で最後を迎えた、稀代の天才譜術士。
そしてもうひとつは真新しい墓標。その天才譜術士の血をひいた、誰よりも気高い詠師。
ただひたすら自らの信念に生きた人だった。
その計画はすべて彼が考え抜いたもので、他人の手にゆだねることはなかった。
拒むか、従うか。選択肢はただそれだけ。
腹心として傍に居たリグレットにすら、その計画については口を挟むことを許されない。
その男が、たった一つ最後に与えてくれた言葉。
『後はお前の好きにするがいい』
はい、と唇だけで囁いて。
彼女はそっと瞼を閉じた。
吹き付ける熱風。
紫が深さを増していく空を、炎が覆い隠す。
青紫色の炎を吹き上げ、セフィロトは自身を燃やし尽くそうとするかのように激しく稼動している。
莫大なエネルギーを注ぎ込まれたリングは、空の高みへとエルドラントをぐんぐん押し上げる。
しかし暴走するセフィロトのエネルギーはその許容量を超えてしまっていたのか、やがてリングのあちこちから炎が上がり始めた。
大気圏に突入して燃える隕石のように、エルドラントはオレンジ色の炎に包まれる。
レプリカの街も、その白い壁の家々も、炎と揺れによって崩れ落ちていった。
セフィロトの発する青紫の炎の尾をひきながら、重力に逆らい続ける。
迸る強い光。
やがてエルドラントは全て第七音素の金色の炎に包まれ、夕闇の色に変わった空を翔る。



***







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