promised tune




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アリエッタはぬいぐるみをぎゅっと抱きしめなおした。
その小さな指先に、譜術の灯りがともる。
「ネガティブゲイト…」
まだ幼さの抜け切らない声が、ルークの周りに闇の空間を発生させる。
「くっ…またこれかよ!」
アリエッタはシンクとリグレットを補助するように譜術を使う。
他に気を取られていると、いつの間にか呼び寄せられた闇に手痛いダメージを受けてしまう。
詠唱が終わる前に攻撃するしかない。
「がはっ!」
避けたはずの爪先。しかしそこから強烈な衝撃波が放たれ、アッシュを襲う。
「これは…ダアト式譜術か!」
わき腹を掠めた一撃は防具越しでもなお倒れこむほどのダメージをアッシュに与える。
ローレライ教団の導師に受け継がれるとされる、体術と譜術を融合させた技。レプリカが扱う場合は数段劣化するというが、それでも恐ろしい威力である。
もう長い間戦い続けている。ふと足元がもつれよろめいたルークに向けて、アリエッタが何かを詠唱し始める。
「危ないですの!」
それを見たミュウは、ルークを庇おうと飛びつくようにアリエッタへ向かっていく。
「…!」
人間ではなかったからだろうか。
そのミュウに向かって譜術を発動させることを、一瞬ためらうアリエッタ。
生まれた隙に、アッシュが剣を振るう。
「……!…う…」
「アリエッタ!」
崩れ落ちるアリエッタの向こう側から、シンクの声が冷たく響く。
「グラビティ!」
足元に広がる譜陣。
押しつぶされそうな重力がルークとアッシュを襲う。
何かが体中を押さえつけているようで、息をすることも困難なほど。
「ルー、ク…!」
「…!」
ちらりと目を合わせ、ルークは頷いた。
次の瞬間、二人の間から沸き起こった第二超振動に全ての音素が無力化され、重力を作り出していた空間はあっさりと霧散する。
「なにっ!?」
勢いのままアッシュの振るった剣がシンクの足を捉え、バランスを崩したシンクはその場に倒れこむ。
「うおぉぉぉ!!!」
叫びとともに、ルークは剣を振り下ろす。
「っ…ごめんな…!」
血に濡れた剣を抜く、ルークの声が震える。
その頬を伝う、一筋の涙。
「……その優しさは不要だ。泣いている暇などあるのか?レプリカルーク」
ルークたちの連続攻撃に、流石のリグレットも息が上がっている。
「うおぉぉ…!レイディアント・ハウル!!」
「ぐぅっ…!」
怒りと悲しみを込めたルークの渾身の一撃が、リグレットの右腕に直撃する。
衝撃で吹き飛ばされながらも、なおリグレットはルークに向けて引き金を引いていた。
鈍い爆発音。
「ッ…!?」
銃は既に壊れかけていたのだろう、込められた力に耐え切れず、リグレットの手の中で暴発する。
それでも放たれた最後の音素の塊がひとつ、ルークを貫く。
「うぁっ!!」
「ご主人様!」
「ルーク!」
ルークとリグレット、二人が同時に倒れこむ。
アッシュが顔色を変えてルークに駆け寄った。
ルークは荒い息をつきながら、周囲を見渡す。
「く…リグレット、は?」
「…!いないですの!」
「なんだと?」
少し離れて倒れたはずのリグレットは、ルークに注意を向けた一瞬の間に消えていた。
「う…」
右肩を押さえ倒れこむ。その指の間から溢れだす鮮血が、ルークの白い服を染める。
「ご主人様ぁぁぁ!駄目ですの!死んじゃだめですのー!!」
「これくらいで死んでたまるか!おいルーク、止血してやる。手をどけろ」
アッシュが引き裂いた布をきつく巻きつける。
「どこに…行ったんだ?」
「さあな。無事じゃいないはずだが…」
ふらふらと立ち上がり、ルークはリグレットが倒れていた場所を確認する。
「みゅうぅ…こっちにも血がいっぱい、ですの…」
ミュウが不安げにルークに触れる。
そこにはおびただしい血をこぼしながらも、遠ざかるリグレットの赤い足跡が続いていた。
これを辿れば追いかけることができる。
「他のレプリカが作られる前にリグレットを止めなくちゃいけない。行こう、アッシュ」
「ご主人様、顔色がよくないですの…少し休んだほうが良いですの」
「ありがとな、ミュウ。でもそうも言ってられないんだよな…」
ルークは苦しげに、少し寂しそうに右腕を見る。
鼓動にあわせるように明滅する指先。
力を使うたびに、音素乖離が進んでいるような気がする。
「アッシュ…?」
動く気配の無いアッシュに、ルークが訝しげに振り返る。
その目の前に閃く白刃。
咄嗟に転がるように避けると、たった今自分の身体があった場所を剣が薙いで行った。
「……!!」



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