promised tune
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ホドは石造りの街であった。 白い街は空の青さに映え、神々しいとすら思う。 それでも、ただそれだけではないことをルークは知っている。 人の気配は無い。 人だけではなく、鳥や動物の気配も無い。 栄光の大地(エルドラント)――――レプリカの街。ヴァンの箱庭。 「アッシュ!どこだ?」 ルークは街の中央にそびえる大きな塔に向かって、大通りをまっすぐ走っていく。 大きな塔を囲むように、ローレライ教団の施設だと思われる大きな建物が建っている。 上空から超振動を放ったとき、ちょうどこの塔を中心としてアッシュの超振動が発せられたように思えたのだ。 塔のどこかに、アッシュがいるに違いない。 美しいアーチを描くその入り口の前で、ルークは肩で息をする。 「よし…」 警戒しながら一歩、薄暗い建物の中へと足を踏み入れる。 余計な回り道ではなく、長い廊下がそのまま中央の塔に向かって伸びている。 廊下には明々と灯火が続く。 まるでこちらへおいでと手招きするかのように。 わずかな灯りが足元を照らすのみだが、廊下の突き当りは一際明るくなっていた。 「アッシュ!答えてくれ!」 呼びかけながら進んでいくが、返答はない。 礼拝堂を思わせる、ステンドグラスから差し込む光。 虹色の光が床を染める。 「これは…」 その中央には祭壇ではなく、下へと向かう長い階段があった。 階段の先には、石造りの大きな扉が見える。 「くそっ…一人じゃ開けられないのか…?そんなはずないよな」 大きな扉はルークがいくら押してもびくともしない。 横を見ると、手をかざせるほどのくぼみに、掘り込まれた譜陣。 「これか…?」 ルークが手をかざすとそれは淡く光り、やがて重い音を立てて扉が開いていった。 「…!」 その先には、地下とは思えない広い空間が広がっている。 これまで通ってきた廊下よりもずっと明るいため、一瞬外に出たのかと思ってしまったほどだ。 まず目に飛び込んできたのは、正面の扉の横にそびえる巨大な二つの彫刻。 翼を持つ女性が、広間を見下ろして微笑んでいる。 床に広がる模様は譜陣にも見える。 広間として使うものではなく、恐らくこの先の扉をくぐるための儀式に使用された部屋なのだろう。 「ここは…」 ルークの脳裏に一気に蘇る光景。 視界の隅で、白い床から立ち上がる紅い影。 「アッシュ!」 駆け寄る靴の音が反響する。 (もう…失うのは嫌なんだ…) 「アッシュ、大丈夫なのか?怪我は?」 「俺の心配をしている場合か…ほかのやつらはどうした?」 「ノエルとガイが島の外の海岸に残ってる。あとは…ルグニカ平野にレプリカ軍が現れたって、その対応で世界中に」 早口でルークが外で起こっていることを説明すると、アッシュは苦い顔で額を押さえる。 「レプリカ軍か…ヴァンが作っていたレプリカだな」 そういって向けられた背を見て、ルークは息をのんだ。 長い髪が翻り、一瞬見えたのは中央に開いた剣のあと。 これ以上傷つけたくない。 頷くルークに、アッシュも頷き返す。 「お前だけなのはかえって好都合だ。超振動の影響を心配する必要がないからな」 「ようこそ、栄光の大地(エルドラント)≠ヨ」 「お前達は、ここに来ると思っていた」 「向こうが開くぞ!?」 軋む音を立てて扉が開く。 まとめ上げられた明るい金色の髪。 大振りな拳銃が二超、その両腕に下げられている。 「リグレット…」 冷静さを湛えた青い目が鋭く細められる。 一見すると華奢なように思えるが、その戦闘能力は六神将随一。 その射撃の腕から魔弾のリグレット≠ニ呼ばれた。 魔弾とは悪魔と契約したものが放つ、意のままに命中させることのできる弾だと言う。伝説では七発中六発が放ったものの望むところに必ず命中するが、残りの一発だけは悪魔の望むところへ命中するとされている。 「やはりお前だったか。ヴァンは…死んだのか」 銃口の冷たい輝きが二人に向けられる。 「勘違いするな」 吹き込む風に、リグレットの服の羽のような飾りが揺れる。 「これはあの方の夢ではなく、私のもの」 「師匠じゃない…」 「そう。私が望んだことだ」 「誰にも邪魔はさせない。そしてお前達は、ここで新しい世界の礎となるがいい!」 「何だと…?」 天井に向けて放たれる銃撃。 リグレットの一撃を合図に、その後ろから兵士達がなだれ込んでくる。 「こいつら…」 神託の盾(オラクル)騎士団の姿をした、レプリカの兵士達。 「チッ…嫌なことを、思い出させんじゃねぇっ!」 リグレットの後ろから現れた兵士達は二十人を越えていた。 「急所をあえて外すように攻撃してきやがる。俺達を生け捕る気か」 彼らと剣を交えながら、リグレットの銃弾にも注意を払わねばならない。 自然と背中合わせになる二人は、それぞれ剣を構えて口にする。 「足を引っ張るんじゃねぇぞ」 「アッシュこそ!」 「「烈穿双撃破!!」」 二人の声が綺麗に唱和した瞬間、爆発的なエネルギーが放たれる。 音素振動数の同じローレライを宿したルークとアッシュは、それぞれが超振動を発生させることができる。 それは剣に乗り、衝撃波となって兵士達を襲った。 兵士達の半分ほどは、あっという間になぎ倒されていく。 倒れ伏す者、自らの剣を杖代わりに辛うじて立っている者、座り込んだまま事切れ動かなくなった者… 広間に血の臭いが広がる。 (ごめん…) それを横目に、ルークは苦しげに眉をひそめ、歯を食いしばる。 決して慣れることはない、他人の生命を奪うと言う行為。 それでも今、迷うことは許されない。 どれだけ悲しくとも、苦しくとも、ここで倒れるわけには行かないのだから。 「どいてろ!」 アッシュの一撃に、兵士の一人が吹き飛んでいく。 「なるほど、ローレライの力か…流石に一筋縄ではいかないようだ」 数が少なくなってきた兵士を盾にするように、アッシュはリグレットの後ろへ回り込む。 リグレットは次々と攻撃の手を繰り出してくる。 銃撃だけではない。強力な譜術もまた、彼女の武器だ。 普通の譜術士ならば詠唱中隙ができるが、リグレットの場合は詠唱中を狙おうとしても、即座に銃での攻撃に切り替えてくる。 うかつに近寄れない上に、リグレットからは長距離の攻撃が可能なのだ。 「流石だな…魔弾のリグレット=v 「仇成す者に聖なる刻印を刻め…エクレールラルム!」 リグレットの足元に輝く十字架が生まれる。 その中央からルークたちに向かって発せられる光。 味方識別がつけられている兵士達を素通りし、ルークの足元に迫る。 「避けろ馬鹿が!」 「っ…!?」 アッシュがルークを蹴り飛ばす。 二人が先程まで立っていた位置で弾け飛ぶ光。アッシュもギリギリのところでその爆発を回避する。 「痛ってぇ…!!…アッシュ!上!」 「行け、シアリングソロゥ」 燃え盛る火球がアッシュの頭上に出現する。 「チッ…!」 転がるように避けながら避けるアッシュに向かい、兵士達が続けざまに剣を振るう。 「アッシュ!」 「ご主人さま、危ないですの!」 すぐ後ろに迫っていた兵士の顔に向かって、ミュウが炎を吐く。 「ありがとな、ミュウ」 「人の心配をしている場合か!」 肩で息をしながらアッシュが怒鳴る。 リグレットの広範囲の攻撃をかわすために走り回り続けているのだ。 「心配なんだから仕方ないだろ!」 怒鳴り返すルークの額を汗が流れ落ちる。 「はっ…どうした、お供は居なくなったぞ」 アッシュがリグレットに剣先を向ける。 鮮血のアッシュ≠フ名にふさわしく、返り血でその両手は鮮やかな赤に染まっている。もはや広間に動ける兵士は残っていなかった。 「そうか?」 リグレットが入ってきた扉から、新たに広間へと入ってきた二つの人影を見て、ルークもアッシュも言葉を失う。 ぬいぐるみを抱え、うつむきがちに歩いてきた少女。 そして防具を目深に被って顔を隠した、緑色の髪の少年。 「生きてたのか!」 「いや…違うな」 アリエッタ≠ヘ答えず、ただ小さく首を振る。 シンク≠煬セ葉を発しない。 「この場にレプリカか被験者(オリジナル)かという問いかけは無意味だ。そうだろう?レプリカルーク=v ヴァンに選ばれたレプリカ。 その声に潜んでいたのは嘲りではなくわずかな嫉妬だということに、リグレット自身も気付いていなかったかもしれない。 「何故こんなことを…」 「決まっているだろう、新しい世界へと連れて行く」 「シンクは導師イオンのレプリカだったはずだな?なぜそこからさらにレプリカを作る必要がある?」 「…シンクの傷はとても生き延びられるようなものではなかった」 モースに攻撃を加えようとしたアリエッタを撃たざるを得なかったとき、ディストを逃がした上でリグレットに向かってきたシンク。 しかし居並ぶ兵士達とリグレットに勝てるはずもない。 ――――被験者(オリジナル)として死ぬ?この僕が!? 死の淵で、レプリカ情報を抜き取ると告げた。 ――――あははははは!…最高の笑い話だね、リグレット 「…笑って逝ったぞ」 リグレットの口元に、わずかに悲しそうな笑みが浮かぶ。 しかしそれをすぐに押し殺し、両手に提げた銃を握りなおす。 「ローレライの鍵を、渡してもらおう」 「なんだと?」 リグレットは銃口をルークとアッシュそれぞれに向けた。 「そして…ローレライそのものも、だ」 音素結合が第七音そのために弱くなりがちなレプリカの特性を補うためには、第七音素の集合体であるローレライの力を利用することが最適な手段だと。 新しき世界の核が必要なのだ、と言いながらリグレットはわずかな顔の動きでシンクとアリエッタ―――のレプリカ―――に合図を出す。 二人は音もなくリグレットの両側に立ち、戦う構えを取った。 「お前もローレライが狙いか…」 アッシュが苦々しげに吐き捨てる。 「ローレライが欲しいなら…なんで師匠が俺に渡すと言ったときには何も言わなかったんだよ?」 ルークがリグレットに叫ぶ。 「それが閣下のご意思だったからだ」 答える声に迷いはない。 他人にどう思われようと、リグレットの中ではすべてあるべき姿なのだ。 「もういいか?お前達に長々と説明してやるつもりはない」 |