promised tune
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「これで予定の兵はすべてです」 ゴールドバーグ将軍が振り返る。 そこには甲冑に身を固めたインゴベルト六世と、その隣にはナタリアの姿があった。 「うむ。バチカルからルグニカ平野までは馬でも一昼夜かかる。これより一週間は、マルクトからの連絡があり次第出発できるように用意をしておけ」 「はっ。現在野営のための物資調達を行っております。…しかし」 「どうかなさいまして?」 「ナタリア様も行かれるとか」 「当然ですわ。私のことなら特別扱いせずともけっこうです。これでも野宿には慣れましたもの」 「そう言われましても…」 一国の王女を兵士達と同じように扱うわけにもいかない。 ゴールドバーグは助けを求めるように国王を見る。 「私、決意しております。ルークが戻ってきたときに胸を張って出迎えられる国にしなければと…そのためには、私だけ安全な場所で待っているなどできませんわ」 インゴベルトは娘をじっと見つめる。 「お父様…いえ、国王陛下。ルークはこの世界の鍵でした。しかし扉を開けるのは、私たち自身の手やらなくてはならないことですわ」 ここは自分達の生きる世界。 ルークの両肩に全てを背負わせて、ただ祈ってばかりいるなどできるものか。 「ナタリアよ…」 インゴベルトは娘をじっと見つめ、深く息をついた。 「お前が娘でよかったと、今心から思っている。だからお前が傷ついたとあっては国民に不安が広がってしまうこともまた、お前ならば分かってくれよう。……自分の身の安全を最優先に、必要な警護はつけるように。それだけだ」 「ありがとうございます、お父様!」 *** 「打ち方、止めっ!」 試し打ちをするかのように打ち合っていた砲撃停止の命令が広がると、ルグニカ平野は奇妙な静けさに包まれた。 風が吹くと、広大な平原にさやさやと草の鳴る音が満ちる。 グランコクマへと続く道は往来する馬車の為に整備されたものだが、今その道の上に陣取っているのはマルクトの陸艦と騎馬兵、そして多くの歩兵達である。 騎馬兵といっても乗っているのはいわゆる馬≠ナはなく、この世界で馬の役割を果たしている気性のおとなしい魔物である。 遠くの風景は平和そのものである。 広大な兵早、地平線まで目を凝らしても山の陰はない。 時折黒くわだかまるのは、背の低い木が林状にまとまって生えている部分だろう。 しかし視線を戻せば相手の姿が見えるほどすぐ近くに、レプリカ軍がいるという、いわば一触即発の状況である。 緊迫した雰囲気を感じ取っているのか、そこら中にいるはずの魔物も姿を現さない。 レプリカ軍にも小ぶりながら陸艦がある。 形からするとローレライ教団のものに見えるが、デッキに見える兵士はローレライ教団の装備とは異なる姿をしている。 兵士達にはキムラスカ兵のような姿をしたものが多いが、ローレライ教団の譜術士のような姿のもの、あるいはおよそ武装しているとは思えない軽装の者も多く見られる。 それらが入り混じり、しかし一言も発することなく一様にマルクト軍のほうを向いているのは不気味な光景だった。 「…攻撃の手が止まりましたな」 タルタロスによく似た一番大きな陸艦の艦長室で、ノルドハイム将軍が首をかしげる。 陸艦のデッキ上には青色の貫頭衣を身に着けた譜術士たちの姿も見える。 詠唱と譜術の発動に集中するためなのか、譜術士たちは皆目までをすっぽりと覆うヘルメット状の防具を着用しているため、その表情まではわからない。 しかし固く結ばれた口元が、その緊張感を物語っている。 ジェイドもいつものマルクトの軍服姿で、何かを考えるように腕組みをして立っている。 涼しげな表情で時折眼鏡の位置を直す仕草をするが、彼の内面がその上辺からは決して推し量れないことはピオニーをはじめこの艦長室にいる者全てが良く知っていた。 「このままこう着状態が続くことも考えられます。ピオニー陛下、どうかグランコクマまでお下がりください」 ノルドハイムの進言に、他の将軍達が一斉に頷く。 しかしピオニーは首を横に振る。 「望んで自らの身を危険に曝すつもりはない。だが…」 人にはその時居なくてはならない場所と言うものがあるのだ。 『伝令!キムラスカの援軍が出立の準備を整えたそうです。わが軍の要請があれば、ただちに北上を開始するとの事です!』 陸艦の伝声管から声が響く。 ピオニーは頷いた。 はじめてルークの話を聞いたときは、信じがたいことだと思った。 『俺は…大切な人たちを守りたいんです』 たった一人の言葉が、世界を動かすときがある。 「なあ、ジェイド?」 「何でしょう」 「軍人は口を揃えて国を守ると言うが、俺にとって国とは国民一人ひとりのことだ。それは今、俺の背中の向こうにある。ここで引き下がって、皇帝ですなんて言ってられるか」 ジェイドは額に人差し指を当て、小さな溜息をつく。 「今更ここで国の定義について議論するつもりはありませんが…」 「何だ、てっきり反論するかと思ったのに」 「ピオニー」 つまらなそうにそうこぼす皇帝の耳元で、ジェイドはだけ本人に聞こえるように呟く。 部下ではなく、一人の幼馴染として。 「私にとって、国とはあなたのことだ。それが私が今ここにいる理由で、それが全て」 驚いて目を丸くしているピオニーと、何事かとこちらを窺う将軍達に、いつもの調子に戻って続ける。 「それでもまぁ、ルークの願いは叶えたいと思っていますよ…不思議ですね」 |