promised tune
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それは巨大な籠に入った島だった。 周囲は音素障壁を発生させていた塔と砲台、そして浮力を保つためのリングで囲われ、最下部ではレプリカのセフィロトが淡い光を放っている。 地面ごと街を抉り取ったかのようなその島の上部には、いくつもの建物がならび、並木で縁取られた通りや豪奢な屋敷、鐘のある尖塔なども見て取ることができる。 砲撃はアルビオールを追うように向きをかえ、打ち出され続ける。 音素障壁のなくなったその上空は穏やかな風が吹いている。しかしその中を、時折切り裂くように放たれる譜術の砲撃。 物理的な弾ではなく譜術によるその砲撃は、ビームのように真っ直ぐにアルビオールに向かう。 砲撃の一部が生みに突き刺さり、白い水柱を上げる。 遅れて届く鈍い爆発音。 その衝撃波がまたアルビオールをゆする。 「ルーク、譜術による対空砲だ。当たると強化したアルビオールでも危ないぞ。どうする?」 ガイが辺りを飛び交う砲撃を目で追いながら叫ぶ。 飾り気はないが、アルビオールの内部は隅々まで機能的に作りこまれている。 シェリダンの職人によって甦った、世界に二台しかない空を行く船。 椅子は衝撃を吸収できるようにしっかりとした背もたれがついており、身体が投げ出されないよう止めておくためのベルトが付いている。 操縦席は二つ並んでいるが、ノエルがすべての操縦を行っている。 その後ろに並んでルークとガイが座っていた。 「くそっ…ノエル、近づけそうか?」 「障壁はほとんどなくなっています!砲撃を避けて、降りられる場所がないか旋回します!」 操縦席の周囲には複雑な配線と、いくつものレバーやボタン、ノエルとギンジにしか使い方の分からない装置が並ぶ。 操縦かんを握りながらそれらの装置を作動させ、なんとかアルビオールをエルドラントへ近づけようとするが、砲撃を避けながらではなかなかうまくいかない。 大粒の汗がノエルの額に浮かんでいた。 聞こえるか、ルーク 突然覚えのある耳鳴りがして、アッシュの声が頭に響く。 「アッシュ…!」 顔を上げ、辺りを見渡す仕草をするルークの肩にガイが手を置いて訪ねた。 「おいルーク、大丈夫か?」 「ああ、アッシュが…話しかけてきて…」 「そうか。ルークの言ったとおりちゃんと生きてたんだな」 ガイがどこかホッとしたような顔で頷く。 「そうだな…でも、アルビオールでこれ以上近づくのは難しそうだ。対空砲を何とかしないと…」 ガイの言葉を聞いているかのように、対空砲が次々とアルビオールに向けて打ち出される。 (アッシュ、今行くからな!) 闇雲に突っ込んで来るんじゃねえ、この屑!エルドラントに向けて超振動を打て! 「超振動?砲撃を打ち落とすのか?」 違う!いいか、タイミングを合わせて超振動を起こせば第二超振動で付近の譜術の砲撃は無効化できるはずだ アッシュの言葉に、ルークは暫し考え込む。 「…でも、失敗したら…エルドラントのセフィロトに影響は?」 あるだろうな 「アッシュ…」 ルークは頭を抱える。 もしセフィロトが壊れれば、エルドラントもろともアッシュは地上へと墜落してしまう。 そうしている間にも、砲撃を避けるためにアルビオールは激しく機体をゆすり、旋回する。 どうする?俺を信じて打てないなら、誰かが砲台を… 「信じるに決まってるだろ」 間髪をいれずに言い返したルークに、アッシュは何処か満足そうに告げた。 ふん…いいか、エルドラントの中央にある塔から、真下になるように打て 「わかった。ノエル!エルドラントの真上にいけるか?」 「…!やってみます!」 操縦かんを力いっぱい引く。 「うわっ…!?」 アルビオールは急激に上昇し、内臓が浮き上がるような感覚とともにエルドラントを遥か下に見る位置へと滑り込んだ。 ルークは揺れに必死に耐えながら、割れた窓の横に移動する。 気を抜くと外に吸い出されてしまいそうだ。 「ルーク!」 よろけたルークのベルトをガイが掴む。 「持っててやる!」 「サンキュ、ガイ!…来たぞ、アッシュ!」 ルークが腰に挿した剣を抜き、両手で構える。 よし、いくぞ…思いっきり撃てよ!3、2、1…! 「いっけええぇぇ!」 剣からほとばしった衝撃が、ホドの街を揺さぶる。 上空からの衝撃はやがて地中から上ってきた別の衝撃と島の地表あたりでぶつかり、澄んだ音を立てて光に変わった。 一瞬の静寂。 その瞬間、打ち上げられていた全ての対空砲が光に散らされるように掻き消える。 「すごいです、ルークさん…!今のうちに、降りられそうな場所を探します!」 アルビオールが浅海の輪を狭め、エルドラントの地表近くへと降りていく。 近づいてくる町並み。 かつては美しかったであろう建物は、大半が瓦礫と化している。 「おい、ルーク…エルドラントが!」 「…!」 衝撃に耐え切れなかったのだろうか。 高台にあったいくつかの塔が、轟音を立てて崩れ落ちていく。 そしてルークの目の前で、島自体がぐらりと大きく傾いた。 「アッシュ!大丈夫なのか?アッシュ!!」 「ノエル、すぐに島から離れろ!」 バランスを崩したエルドラントは、重力のロープに引かれるようにゆっくりと地面へと向かう。 その下を潜り抜けるように飛ぶアルビオールに、大小さまざまの瓦礫が降り注いだ。 ガシャン! 「きゃあっ!?」 操縦席の横の窓にも岩の塊がたたきつけられ、鋭い破片がノエルを襲う。 破片はノエルだけでなく、ルークたちにも襲い掛かる。 とっさに椅子の影にしゃがみこむことのできたルークやガイは椅子の背もたれのおかげで大きな怪我を免れたが、操縦席にいるノエルはそうもいかない。 大きなゴーグルのおかげで目には影響ないようだが、白い襟は頬から流れた血で染まっていた。 「ノエル!」 外気が流れ込み、操縦室の中で風が暴れまわる。 懸命に舵を取るノエルだが、エルドラントの地面が見る間に迫ってくる。 「まずいな、このままじゃエルドラントに墜落するぞ」 そのエルドラント自体も降下を続けており、すぐ下には大陸の海岸線が見えていた。 「…!前方の海岸部に不時着を試みます。かなり揺れますから、お二人ともしっかりつかまっていて下さいね!」 突き上げるような衝撃とともに、砂が吹き上がる。 「ぐっ…!ルーク!」 「うわぁっ!」 跳ねるアルビオールからはじき出されたルークは、水しぶきを上げて浅瀬に落ちる。 「大丈夫か、ルーク!」 やっとのことで止まった機体から、ガイがふらつく足取りで出てくる。 その後ろに、やはり同じようにふらついているノエルの姿。 「すみません、ここまでが、私の腕、じゃ…」 「ノエル、怪我は?」 「手が…アルビオールから傷薬を取ってこよう」 操縦かんを握り締めていて庇うことのできなかった右手はとくに酷く、手袋としっかりとしたジャケットを着用しているにもかかわらずあちこちが破れ、血が流れている。 「だいじょうぶ、です…これくらい…」 ノエルの身体からふっと力が抜ける。 咄嗟にそれを抱きとめたのはガイだった。 「っ…はは、女性恐怖症が治ったかもなんて、言ってる場合じゃないか」 「ガイ、ノエルを安全な場所へ連れて行ってくれ」 「ああ…それはもちろんだが、お前は?」 視線の先には、誘うように砂浜に突き刺さった白い柱。 「行かなきゃ行けないんだ」 「馬鹿なことを言うなよ!お前一人行かせられるわけがないだろう!」 「一人じゃないさ。アッシュがいる。それにたぶん…ローレライも」 もう一人のローレライ。 「ご主人様!僕も居ますの!」 「そうだな、ミュウ」 「だったら少しだけ待ってろ!ノエルを手当てしたら、すぐ…」 「ガイ」 ルークの差し出した掌は淡く輝き、その向こうに砂浜へと寄せる波が透けてみえる。 「お前…それ…」 「時間がないんだ。今行かなきゃ、絶対…俺は後悔すると思う」 「ルーク…」 |