promised tune
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見上げた夜空は星で埋め尽くされていた。 「綺麗ですのー!」 肩の上でミュウが弾んだ声を上げる。 「しーっ、ミュウ、みんな寝てるんだから大きな声出すなよ」 「はいですの!」 「ミュウ、これ外すけど、いいか?」 「…大丈夫ですの!」 今度は小さな声で返事して、ミュウはルークの背中にしがみついた。 ルークは左目の眼帯をそっと外し、深く息を吸う。 少し視線を下げると、そこにはシェリダンの街並み。 淡い光が闇の中にいくつも煌いて、暗闇に慣れた目には少し眩しい。そしてその光に踊らされるように、足元にはいくつもの影が伸びていた。 「ルーク?」 階段の上から呼びかけられた声に、足を止めて顔を上げる。 シェリダンの街を背に、ティアが首をかしげてルークを見ていた。 「どうしたの?何かあった?」 「ティア…どうして外に?」 「それはこっちの台詞だわ。あなたが宿を出て行ったから、何かあったのかと思って…」 シェリダン港のほうへと街を出て行くルークを、こうして街の入り口で待っていたのだと。 街の外まで追うべきか、迷いながら心配していたのだろう。ホッとしたような口調とともに、どこか怒ったようにティアはルークに詰め寄る。 「あちゃー…」 誰にも気付かれていないと思っていたルークは、照れくさそうに頭をかいた。 「ティアだけか?もしかしてみんな俺を探してたりするのか?」 「あまり大事にするのもどうかと思ったから、言っていないけれど…どうかしら。あなたがいないことには気付いているかもしれないわ」 「そっか。じゃあ怒られる前に帰んなきゃな」 そういいながら、ルークはポケットをごそごそと探る。 「…どこに行っていたの?」 「うん…ここならよく見えるかな」 街灯の下。ルークはティアを手招く。 「ルーク?」 訝しげに歩み寄ってきたティアの前に、取り出したペンダントをかざした。 「これは…」 ティアが息をのむ。 大粒の宝玉がはめ込まれた、美しいペンダント。 かつてティアとルークが超振動を引き起こし、タタル渓谷まで飛ばされてしまった夜に、辻馬車に乗るためにティアが渡した、母の形見のペンダントだった。 「どうしてここに…?」 「ずっと探しててさ、ギンジさんが協力してくれて、ようやく見つかったんだ」 淡いオレンジ色の灯りに、宝玉がキラキラと輝く。 ティアも世界中の街を巡るたびに探していたが、辻馬車の代金としてはつりあわないほどの逸品はその後各地で取引を繰り返されたようで、どこにあるのか、いったいどれくらいの値段になってしまっているのかわからないままだったのだ。 今日ようやく、ケセドニアの道具やで見つかったのだと言う。 しかしアルビオールが修理中で動かせない中では船で取り寄せるしかなく、どれだけ早い船でも到着はこんな夜中になってしまった。 「ちゃんと探すって約束しただろ?」 「ルーク…でも…」 ティアは迷うように視線を揺らす。 このペンダントがどれだけ高額なものか、探していた自分が一番良く知っている。 「あ、代金は母上からもらったんじゃなくて、ちゃんと自分で稼いだんだからな」 「アルバイトですの!ミュウもお手伝いしましたの!」 ルークの背中から小さな声でミュウが主張し、ティアは思わずミュウを探してあたりを見渡した。 「受け取って…くれないかな」 不安そうなルークの声に、ゆっくりとうなずく。 そしてそっと受け取り、首にかけた。 「ありがとう」 にっこりと笑うティアに、一人と一匹の表情はみるみる明るくなる。 「良かったですの!ご主人様、ティアさんが受け取ってくれないんじゃないかった心配してましたの!」 「ばっ…こらミュウ!馬鹿なこと言うなよ!」 「みゅう…内緒でしたの…」 「でも、一人であまり歩き回らないほうが良いわ。この辺りは比較的治安がいいけど、魔物だって出る可能性があるのよ?」 その一言がティアらしい、とルークは笑う。 「そうだな。強くなったつもりだけど…やっぱり俺一人じゃなにもできないし」 「人間一人にできることの限界があるのは当たり前よ。だから人は国を作るし、こうして誰かと一緒に居るんじゃない。…でもあなたは…強いと思うわ」 「…そうかな」 「僕もいますの!」 「そうね、ミュウ」 「ありがとう、ティア。…あとミュウもな」 「さ、戻りましょう」 夜風がひんやりと頬を撫でる。 「うん…」 でも本当はもう少し、こうして夜風に当たっていたい。 この胸のざわめきが治まらなければ、とても眠れる気などしない。 ルークはまた眼帯をつけ、宿に向かってティアと並んで歩き出した。 |