promised tune



「ジェイド!」
早足で歩くジェイドに洞窟の入り口近くでようやく追いついて、ディストは叫ぶ。
「私は諦めていませんからね!」
ネビリムを完全な形で復活させること。
ジェイドを凌ぐ研究者になること。
目標はたくさんあるが、その全てを、諦めたりはしない。
全部が大切なものだからだ。
「まあ、ですが…私もなんだかんだ歳をとったもので」
多少なりとも理解した事がある。
「…私が取り戻したいものは、先生だけじゃない」
拗ねたようにディストが呟く。
それはきっと、彼女を取り囲むあの時間そのものだ。
その中にはジェイドがいて、ピオニーがいて、自分がいる。
先生が笑っている。
時々酷く怒られ、泣く事もある。
「ただ一人の存在によってもたらされるほど、私の幸せは単純なものじゃありませんからね」
大切なのはどれかひとつではなく、その全てなのだと。
だから…
「もしあなたが勝手に死んだら、私がこの手で華麗に蘇らせてあげますからね」
じぇいどはきょとん、とした表情でディストを見つめ、そしてにっこりと笑った。
「いやー、まっぴらゴメンです」
「なっ…」
「私が死ぬときは、この命を懸けるのに十分な理由があるときだと決めていますからね」
きっぱりと言い切る、その目だけが真剣な光を湛えていた。



暗い洞窟の中から出ると、銀世界はさらに眩しく見える。
「おいおい、ずいぶんと遅かったな」
その輝きを背に現れた人影に、ディストもジェイドも目を見開いた。
「!」
「陛下!?」
「中で氷像になってるんじゃないかと心配したんだぞ」
それはマルクト帝国の皇帝、ピオニー九世だった。
本来ならこんな辺境の街、しかもさらに街から離れた墓地にいきなりいる事はありえない人物である。
「…偽者じゃないでしょうね」
訝しげなディストに、ピオニーは笑って胸を張る。
「こんなところに一人で来る皇帝が他にいるわけないだろう、サフィール」
言葉通り、供の一人も連れていないらしい。
辺りに他の人影も、気配もない。
「何をしているんですかあなたは…グランコクマにおいでのはずでは?」
呆れた表情でジェイドが問う。
スケジュールでは大地降下後のキムラスカやユリアシティとの会議に向け、一日中会議漬けになっているはずだったが。
ディストはどうやらピオニーにかかわらないようにしていたいらしく、あさっての方向を眺めて鼻歌を歌っている。
「型どおりの会議があんまり退屈だったんでなぁ。ゼーゼマンのじいさんに胃薬渡して全権委任してきた」
「…こちらにいらした目的は?」
どのみちろくな事ではないだろう、とジェイドは目を細める。
「あ、なんだ?その顔は。別に遊びに来たわけじゃないぞ。ルークに導師イオンの容態も伝えたし、次の会議の予定も伝えてある」
「別にあなたじゃなくても良いでしょう。鳩を飛ばしてくださればすみます」
「あとはまあ、預けた水着のサイズが合っていたかどうかこの目で確かめられれば言う事無かったんだけどな。残念ながらちょうどスパから出てきたところだったらしい」
「……本命はそれですか」
「いやいや。俺の大事な懐刀であるジェイドの顔が見たくなった。これが本命だ」
にこにこと言い切られ、流石のジェイドも額を押さえて黙り込む。
「とにかく…ケテルブルクまで戻りましょう。こんなところで皇帝陛下に風邪を引かせたとあっては軍法会議ものです」
「よしよし。身体が冷えたところでもう一度スパだな」
「…フレイムバーストでよろしければいつでも発動して差し上げますよ」
雪の中を三人で歩く。
ずいぶん久しぶりだ、とピオニーは楽しそうに雪を蹴散らした。
「ちなみに…次の会議はどこで?」
息一つ乱さず歩きながら、ジェイドが尋ねる。
「バチカルだ」
「バチカル?グランコクマではないのですか?」
「ま、今回は俺がこっちに招いたからな。順番ってやつだ。それに…」
灰色の空を見上げて、ピオニーは一つ溜息をついた。
「アッシュのこともあるからな…」




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