promised tune
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「解放…ですか」 「その全部をルークとアッシュに託そうってのは、確かに虫が良すぎる話だよな」 「そうですわ。それは本当にルークにしかできないことなのでしょうか…」 窓辺にはきらめく光。 銀世界に建てられたホテルの一室で、ベッドを囲むようにしてジェイドたちは座っていた。 そのベッドには、ルークが寝かされている。 大地降下の作業の後意識を失ったルークをつれて、ここケテルブルクのホテルへと向かったのだ。 ミュウはルークに寄り添うようにその枕元で寝息を立てている。 アニスはこの部屋にはいない。 グランコクマに保護されたイオンの様子を伝書鳩で受け取るために、先程からホテルの外で待っているのである。 「……」 ナタリアの問いにジェイドの表情が曇る。 「もし私の予想が当たっているのなら…そうですね。恐らくルークと…アッシュにしか出来ないことなのでしょう」 「なぜです?大佐」 ティア、ガイ、ナタリアが揃ってジェイドに注目する。 「それは彼らが…」 ジェイドが答えようとしたとき、ノックもなしで扉が開いた。 「完全同位体だからですよ!」 どうやって中の会話を聞いていたのか、そう言って胸を張る。 キラリ、と眼鏡が輝いた。 「ディスト!」 「なぜここに?」 そもそも扉には鍵を掛けておいたはずだが、とガイが首をひねる。 しかしディストは何事もなかったかのようにスタスタと部屋の中心まで来ると、担いでいた袋をどさっと下ろした。 「届け物を頼まれましたからね。まったくあの国王の人使いの荒い事と言ったら…それに!ここは私の故郷でもあるんですよ、来て何が悪いんですか…そんなに睨む事ないでしょう…」 威勢のいい台詞は、ジェイドの眼光に徐々に弱々しくなっていった。 あっというまにしょんぼりと小さくなったディストを励ますように、ナタリアが声をかける。 「届け物とは…ピオニー陛下からですか?」 「そ、そうです!…ここのスパの特別会員券だとか言ってましたけどね」 「まあ…」 しかし足元に置かれたのは、会員権が入っているには大きすぎる袋である。 「でもこの袋は…」 「中身は知りません。まあ、あとで開けてみるんですね」 「ええ、ありがとうございます。それで…完全同位体とは何ですの?」 ディストはメガネをくいっと上げてナタリアを見る。 「レプリカとオリジナルで構成する音素が完全に一致することです。これまで前例など無く…そうですね、アッシュとルークが史上初の成功例と言って過言ではないでしょう」 「そう…なのですか」 ディストはあくまでフォミクリー技術者という立場から力説するのだが、自分もレプリカを作られたガイは苦い顔でそれを見ている。 ジェイドに至ってはこれ見よがしにあくびをしていた。 「もちろんこの華麗なる天才技術者ディストの腕あってこその成功ですけどね!あとはどのようにビッグバンを回避…おぐぅっ!?」 「はーいディスト…それくらいにしておきなさい」 何の予備動作もなくジェイドが放った枕が、ディストの顔面を直撃する。 それはたった今までミュウが頭を乗せていたものだったが、当のミュウは枕を抜き取られた事などまったく気付かずにすやすやと眠っていた。 「大佐…今のは見事だと思います」 その技術に思わずティアが拍手する。 「ゲホッ、ゲホゲホッ…なんですかいきなり!人が気持ちよく話しているというのに!」 「せっかくのお誘いです。日が暮れるまでにスパに行くのが良いでしょう。それに…」 ディストの抗議をさらりと受け流し、ジェイドが肩をすくめる。 「ようやく、お目覚めのようですしね」 掌を向けた先には、ぼんやりと目を開いたルークがいた。 「あれ…ここは?」 ゆっくりとベッドの上に身体を起こす。 ガイやナタリアはディストを押しのけるようにしてその枕元へ駆け寄った。 「ルーク!」 「ルーク!気がついたのね!」 衝撃に、ミュウがコロンとベッドから転がり落ちる。 ぺちんという音に続いて小さな悲鳴が上がった。 「みゅうぅぅ…?ハッ!ご主人さま!起きたですの!」 床にぶつけたおでこに手を伸ばしながら、ミュウはようやくルークが身体を起こしている事に気付く。 「…ああ…」 目覚めたルークは、まだどこか寝ぼけた目で室内を見渡していた。 飛び上がったミュウが、一回転してベッドの上に着地する。 「ルーク?」 「どうした?」 「どこか痛むのですか?」 「大丈夫?」 顔を覆って深く息をつく姿に、心配したティアが背中を優しくさする。 「アッシュ…」 「…ん?」 「アッシュが、生きてた…」 ルークの言葉に、ナタリアが思わず立ち上がる。 「…!」 「本当ですの?ルーク!」 ルークは泣き笑いのような複雑な表情で、ナタリアたちを順に見る。 「夢…の中で、会ったんだ」 「夢ですって?」 その言葉に身を乗り出したのはディストである。 「ふむ…完全同位体どうしだと夢を通じて共鳴する、あるいは干渉しあう事があるということですか?それは興味深い」 「それは…」 「はいはい。ちょっとディストはそっちの部屋の隅に行ってて下さい」 「もがっ!?…むぐぐ…」 引きずられていくディストに、ナタリアとティアが思わず顔を見合わせる。 ミュウは頭上を行き交う言葉を、くるくると見回しながら聞いている。 「ただの夢、ではありませんわよね?」 「ローレライは、宝珠と剣が影響し合って、俺の音素の一部がアッシュの所に一瞬引き寄せられるんだって言ってた」 だからただの夢…自分の願望を見ただけじゃないはずだと、ルークは自分にも言い聞かせるように呟く。 「なるほど…」 戻ってきたジェイドが腕を組んでうなずいた。 部屋の隅には縛り上げられ、猿轡までされてもごもごと呻くディストの姿。 「ああ、アレはお気になさらず。いつものことですから」 「は、はい…」 「宝珠には第七音素を拡散させる力があると…ルークも以前言っていましたね」 「え、ええ…そして剣は集約の力を持つ…では、逆はできないのでしょうか、大佐」 「そうですねぇ、理論上はルークがアッシュへ近づく事のみ可能という事になりますが…」 同じようにアッシュもルークの元へ近づく事ができるのであれば、それを利用してアッシュをいわば召喚≠キるような仕組みが考えられないでもない。 しかしルークの話を聞く限りそれは難しそうだった。 「それで、アッシュは何と?」 ナタリアがたずねる。 ルークは思い出すかのように目を閉じ、また一つ溜息をついた。 暗闇の中のアッシュの姿。 絡みつく鎖…身動きも出来ないほどに。 あれはまるで、ユリアに捕らわれたローレライのような… それを説明すると、ナタリアの表情が曇る。 「…ローレライも、どこにいるのかはわからないって…わからない事がつまりは答えなんだとか言ってたけど」 「あの傷でしたもの…ちゃんと手当てを受けているか心配ですわね」 「しかしローレライにもわからない、ですか…それは同じくローレライの力か、それ以上の力が働いているという事ですね?」 ジェイドの言葉に、ルークはゆっくりと首を振る、 「それは俺にも分からない。アッシュにも、分からないみたいだったけど…」 「生きているのがわかったのはいいけどな…今のところ探しようがない、か…」 ガイが溜息をつく。 重苦しい雰囲気を払うように、ティアが微笑んだ。 「良かったわね、ルーク。少なくともアッシュが生きている事はわかったんですもの。これから他に打つ手はあるはずだわ」 「ティア…そうだよな。生きてる事がわかったんだから、落ち込んでる場合じゃないよな」 「そうだな。あとは早く回復して動けるようにならないとな」 ガイの言葉に、ジェイドがぽんと手を打つ。 「そんなルークに、ピオニー陛下から贈り物が届いていますよ」 「え?」 「このホテルのスパの、特別会員権だそうです」 「ふむっ、もがっ、っぷはっ…も、持ってきたのはこの私ですからね!感謝なさい!」 器用にも猿轡をはずして声を上げたディストを、ジェイドが横目で見る。 「はいはい。それではディストに感謝しつつ…スパに行ってみることにしましょうか」 「おっ、賛成!」 ルークがベッドから足を下ろし、恐る恐る立ち上がる。 ティアたちの治療のおかげか、傷はほとんど塞がっているようだった。 「ちょっと!私を置いていくつもりですか?待ちなさい!待ってくださいってば、ジェイド〜!」 |