promised tune
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「アッシュ!」 暗闇に浮かび上がる赤い髪。 うなだれるその顔は見えないが、間違いなくそれはアッシュの姿だった。 「…!」 呼びかける自分の声さえも闇に吸いこまれていくようで、ひどく遠く聞こえる。 今にも転びそうな足取りに、焦りばかりが大きくなる。 それでも少しずつ、その姿が大きくなる。 ようやくその前に辿り着き、ルークは息をのんだ。 「これ…何でこんな…っ」 ぐったりともたれかかるのは墓標のような漆黒の石。そして闇と同じほど黒い鎖で、アッシュはその石に縛り付けられていた。 「アッシュ、起きろよ!起きろってば!」 何度も呼びかけ、頬を軽くたたく。 アッシュが軽くうめくのが聞こえた。 「ちょっと待ってろよ、今解くから」 鎖の結び目を探して石の後ろに回り込むが、石と鎖が完全に一体となった闇の中、どれだけ手探りをしても結び目を探り当てることができない。 まるで、鎖の端が石に吸い込まれてしまったかのように。 「ルー…ク…?」 聞こえた声に、ハッと顔を上げる。 「アッシュ!」 「っ…ここは…?」 驚いた顔で見渡すアッシュに、ルークはホッとして手を伸ばした。 ぶんぶんと邪魔そうに頭を振る姿を見て、その髪を代わりにかき上げる。 「わからない…アブソーブゲートでパッセージリングを操作した所までは覚えてるんだけど、その後目の前が暗くなって…」 「…ずいぶんと眩しい姿だな」 「え?」 言われて初めて、自分の身体が淡く輝いている事に気付く。 ローレライを取り込んだためだろうか。 「ちっ…ただの鎖じゃなさそうだ」 何度も身体を揺すり、やがてあきらめたようにアッシュが力を抜く。 「そうだ!アッシュ…怪我は?痛くないか?」 「平気だと…言いたいところだがな。どうやらここは肉体的な傷とは関係ない場所らしい。破れた服の端ですらきれいに直ってやがる」 それを聞いてルークも自分の姿を見下ろす。 たしかに、これまでの戦いで破れ、血が滲み、ボロボロになっていた服はまるで着替えたばかりのように汚れ一つ見当たらない。 「ここ、どこだろう」 今更困惑したように言うルークに、アッシュが呆れたように鼻を鳴らした。 「ふん…どうせローレライのやつが何か干渉しているんだろう」 その言葉にルークは思い出す。かつて、似たような感覚で星闇を歩いたことを。 そのときのように、左目だけで闇を見渡す。 今度は左目で見ても、変わらない闇が続くのみ。 しかし、はるか遠くに、白っぽく浮かび上がる場所があった。 「あれは…何だろう。雰囲気はユリアロードに似てるような…」 「少なくとも、ここから出られそうではあるな」 アッシュも目を細めて言う。 どうやらそれ以外に目立つ場所はない。 しかし、アッシュはまるで歩けそうにない状態なのだ。 「お前はもう行け」 その言葉にルークは勢いよく首を振る。 「嫌だよ。アッシュを置いて行けるわけないだろう!」 「このまま二人とも干乾びるわけにはいかないだろうが」 肉体と離れた場所である以上、時間の流れも同じかどうかがわからない。 ここにいたところで干乾びるとは限らないのだが、アッシュにそう言われると不気味な恐怖がルークの背中を駆け上る。 自分の想像に、ぶるっと身体を震わせた。 晴れた日に土から顔を出してしまったミミズのように、からからに干からびたアッシュの姿が浮かんだのだ。 「そんなの…やだからな」 思わずアッシュの首に抱きつく。 「うえっ…なんか想像したら気持ち悪くなってきた…」 「おい…」 呆れた声に顔を上げる。 思ったよりも直ぐ近くに、アッシュの瞳があった。 「立ち直ったか?ならとっとと行け。…これは別の脱出方法を探すしかないだろう、今は」 自分を縛る鎖を顎で指す。 ルークはしばし逡巡したあと、頷いて立ち上がる。 「じゃあ…絶対助けに来るから」 「お前に助けられるまでもない。これくらい自力でとっとと解いてやる」 「やだ。俺が助ける」 「は…?」 ルークがあまりにきっぱり言い切るので、思わずけんか腰に聞き返してしまう。 眉根を寄せて見上げると、ルークは難しい顔で溜息をついた。 「だって…今までたくさんアッシュに助けてもらったんだからな」 「…それはお前が頼りなさすぎるからだ」 「うん。でも…俺だって、アッシュの力になりたい」 アッシュの言葉に多少頬を膨らませながらも頷く。 「だから今度は俺がアッシュを助けるから。約束する」 「…約束は嫌いだと言ったろう」 「じゃあ…」 しばらく首をかしげたルークが、何かを思いついたようにぴんと背を伸ばした後、暫く黙り込む。 アッシュが何か言おうと息を吸った瞬間、不意にルークの顔が近づいてくる。 誓いのキス≠ニ。 かつてコーラル城でアッシュがルークにしたキスと、恐らくは同じ意味をこめて。 ほんの一瞬、唇が触れ合う。 そのまま恥ずかしそうに顔を背けると、ルークは急ぎ足でユリアロードらしき明かりへ向かって歩き去った。 一人残されたアッシュは、思わず天を仰ぐ。 「……あんの…馬鹿が…っ」 抱きしめたいと、思ってしまった。 それなのに鎖に縛られた両腕はピクリとも動かない。 思いっきり舌打ちをして、アッシュはルークが歩き去った遠くの闇を目を細めて見つめた。 |