promised tune


いくつかの怒号と悲鳴。
『ローレライ教団大詠師、モース様のお着きだ!』
イオンが振り向いた瞬間、目の前でドアが音を立てて破壊される。
その後から巨大な影がのっそりと入り込んできた。
「ひひ…イヒヒヒヒ。これはこれはイオン様ではありませんか。お探ししましたぞぉ」
「あなたは…モースですか?」
イオンがその化け物の正体に思い当たるまでに、数秒の時間を要した。
「おやぁ、この私のことをもうお忘れになったと?それはつれない…ひひひ…」
話をする間にも、まるで風船に空気を入れるかのようにその身体は膨らみ続けている。
「ス…予言を排除するですとぉ?ぐふぅ…そのような暴挙、イオン様といえ許せませんなぁ」
苦しさと嬉しさが混じったような――――狂気の表情を浮かべ、モースはじりじりと詰め寄ってくる。
その姿は徐々に人間の面影をとどめなくなり、それと同時に理性もなくなっていくようだった。
「ひゃははは…チ、ち、力が流れ込んでくるぞ…ひゃはぁ…ぐふっぐふっ!げふっ!」
「モース、あなたは…第七音素を取り込んだのですか…」
素養に恵まれない人間が大量の第七音素を取り込むと、体内の他の音素と共存できず暴走してしまう。
モースの中で今それが起こっているのだった。
もはやどこを切り取っても人間とはいえない姿になりながら、身をよじって叫ぶ。
「もっと…も…もっと力を…そして私が世界のおおおぉぉ全ての予言を読み、げふっ!は、繁栄を…ふふふイぃぃオンさま、ぷプラネねねットストームを活性、邪魔させ、まぁぁ」
「モース…」
モースの抱えている望みは、それでも人間であった頃と変わらないものだった。
今や暴走しているとはいえ第七音素の力で予言の一端を読む事ができるようになり、更なる力を求めてプラネットストームを活性化させにやってきたのだろう。
ふと、モースの陰に隠れるように立つ兵士に気付く。
兵士が抱えているのは人間だった。
「あれは…」
自分と同じ、緑色の髪の少年。
恐らくはイオンのレプリカの、一人。
イオンの瞳に、悲しみと怒りの色が過ぎる。
どこまでも弄ばれ、消費されていくだけのレプリカ。
自分だってこれまでそうだった。イオンの人形≠ニして…
「そこまでだ、大詠師モース」
イオンがダアト式譜術でモースに立ち向かおうとしたとき、その後ろにいた兵士が突然倒れる。
その腕から少年を抱きとったのは、大きな鎌を肩にかけた男だった。
「ラルゴ…?」
六神将の一人。黒獅子ラルゴと呼ばれたその大男は、鎌の先をモースへと向ける。
「あまり私情は挟まない性質なんだが…あんただけは許しておけなくてね」
「おま…お前もじゃまぁだぁああああははは…ふうう…」
「ここまで化け物面になってくれてよかったよ。これで心置きなくアリエッタの敵が取れる」
「…!」
イオンが目を見開く。
ラルゴは抱えていた少年をそっと壁際に置くと、じりじりと間合いを計った。




「ひーっひひいいい!みんな、しねぇぇぇい!」
「おりゃぁっ!」
ラルゴの鎌とモースの腕が激しくぶつかり合う。
普通の人間の腕であればその鎌の刃で切り取られているところだが、モースの腕はその見た目の膨張感とは裏腹に火花を立てそうな勢いで鎌をはじいている。
「火竜爪!」
ラルゴが放った一撃に、モースの肩口が切り裂かれ、さらにそこから炎が上がる。
「ひゃあぁっ!あつぅぅい!」
モースの形勢が不利と見てか、入り口の向こうで兵士達のさっきが膨れ上がる。
「行かせるか!」
「忘れてもらっちゃ困りまスなあっ!」
「頼んだよっ!雑魚はこっちで抑えるからさ!」
扉の外からノワールたちの声。
「ひゃぎゃぁぁっ!」
もはや言葉にならない叫びを上げて、モースが黒い衝撃波を放つ。
それは鎧さえあっさりと切り裂き、ラルゴの身体のあちこちに血しぶきを上げた。
何度も何度も放たれる衝撃波に、ラルゴの動きが徐々に鈍くなっていく。
ダアト式譜術で加勢すべきかどうか、イオンはモースの隙を狙っていた。
しかしラルゴを巻き込まないようにしようと思うと、なかなかチャンスがない。
「本気でいくぞ…業火に飲まれろ、紅蓮旋衝嵐!」
ガラガラになった声を張り上げ、ラルゴが連続で鎌を繰り出す。
「ひゃっ!ひゃぁっ!ぐふあっ!」
「うおおおぉぉぉ!」
とどめとばかりに大鎌を振り上げると、モースの足元から火柱が吹き上がる。
離れているイオンでさえやけどをしそうなほどの勢いで、その炎はモースを飲み込んだ。





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