ケモノたちの午後



「えっ…えええっ!?」
目を覚ましたルークが見せた反応は、アッシュと全く同じものだった。
アッシュの頭に着いた猫耳を見て目を丸くし、ついで自分の頭と尻に手を当てて凍りつく。
「アッシュ…これ…何だ?」
「…。」
(聞きたいのは俺のほうだ)
ただ首を振る。混乱しているのはお互いさまで、答えられるわけがない。
不機嫌に沈黙するアッシュの前でルークはその尻尾を引っ張り、「いてっ!」と声を上げる。
「生えてるし…なあなあアッシュ、これ動かせるんだぜ」
ぴこぴことルークの尻尾が揺れた。
「いいからとりあえず服を着ろ」
自分が何も着ていないことよりも猫耳猫尻尾の衝撃のほうが強いらしく、ルークは唖然としたままアッシュが差し出した服を何も言わずに羽織る。
いや、もしかしたら昨夜のことは覚えていないのかもしれない。
アッシュの胸の内をちらりと複雑な思いがよぎるが、こうなってはひとまず棚上げである。
(しかし…俺たちだけなのか?)
「これ、他の人にもあるのかな…」
ルークも同じことを考えていたらしい。
その表情とともに耳の角度が変わるのを見ると、やはりこれはすでに身体の一部になってしまっているようだ。
尻尾をズボンの中にしまうのはくすぐったいような窮屈なような変な感覚なので、無理やりズボンの上に出してみる。いつもより下げ気味にズボンをはかねばならないのでなんだか落ち着かない。
途方に暮れた表情で見つめあうと、どちらともなく溜息が洩れる。
ルークが着替え終わるのを待って、アッシュは静かにドアを開けた。

「ご主人様、ミュウを置いて行くなんてひどいですの!目が覚めたらティアさんの布団の中でしたの!」

二人が向かったのは応接室だった。
運よくメイドにも出会わず辿り着くと、ルークは両開きの扉の片方を恐る恐る開く。
そのとたん目の前に飛び出してきた水色の塊が、ルークの腕にひしっと抱きついて声を上げた。
(…!?)
後ろにいたアッシュにだけ、驚いたルークの尻尾が一瞬膨らむのが見える。
それがミュウだとすぐに気付いたルークは、申し訳なさそうにその頭をなでた。
「悪い、俺も昨夜のことは記憶がなくってさ…」
応接室には既にティア、ナタリア、アニスの女性陣が顔をそろえていた。
「ミュウったら、あんなに気持ちよさそうに寝てたのに…それじゃ私が離さなかったみたいじゃな…い」
「二人ともおそよう≠イざいます、ですわ。朝食というよりはお茶の時間ではなくて…?」
「仕方ないじゃん、昨夜の主賓なんだしぃ。ふわぁぁ、アニスちゃんもまだ眠…」
彼女たちはまずルークの腕の中のミュウを見て、それぞれの言葉を口にしながら何気なく二人の姿を眺め…その言葉が止まる。
『ルーク!?』
見事に揃ったその声。アニスはトクナガを、ティアは手に持っていた杖を思わず取り落して驚いていた。
「み、耳…!?」
「何それぇ?」
「ご主人様、尻尾もあるですのー」
目を丸くしたミュウは、左右に揺らされているルークの尻尾を追うように首を振る。
「どうしたの?ルーク…アッシュまで…」
アニスとナタリアはぽかんと口を開けたまま固まり、ティアは心なしか嬉しそうな表情にも見える。いや、感動といったほうが正確だろうか。
その唇が『かわいい…』と音を立てずに動く。
「え…?」
ルークもまた、困惑した表情で固まった。
彼女たちの姿には何の変化もない。
つまりはこんなふうに猫耳尻尾が生えてしまったのは、自分とアッシュだけということ…?
「何で…俺たちだけ…?」
ルークは頭を抱え、そして叫んだのだった。




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