promised tune





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耳に届いたのは虫の声。
夜風が花の匂いを運んでくる。
「ここは…」
「タタル渓谷、か」
白い花が一面に咲き誇り、風に揺れている。その白さに月光が反射して、お互いの表情が確認できる程度に明るい。
「本当にもとの世界、か?」
実感がなさそうなアッシュに、ルークが笑う。
「みんなに会ってみればわかるって。あれから少し時間が経ってしまってるって、ローレライは言ってたけど…」
月明かりのほうへ数歩踏み出し、ルークはくるりと振り返る。

「おかえり、アッシュ」

その目に滲む涙が、月明かりに反射してキラキラと輝く。
「泣きたいのはこっちの方だ」
アッシュは大股にルークに近寄ると、その腕を引き寄せ、強く抱き締めた。
「アッシュ…?」
「近づくと面倒だと、思ってたんだがな…」
「え?」
耳元で呟かれる。
「やっぱりそうだった。危なっかしすぎて…だが、それを放っておくほうがよほど面倒なことになりそうだ」
「そんなにひどいかなぁ、俺…」
しゅん、と肩を落とすルークを、離さないまま。
その長くなった髪を指先でかき上げる。
「…邪魔だな」
瞳を覗き込まれる。
「…?また切るよ」
「…意味が違うが、まあいい」
そっと重ねられる唇。
ルークが硬直している間に、何事もなかったかのようにアッシュは歩き始める。
「遅いぞ、ルーク」
「え?アッシュ?今のって…その…何の約束?」
「………気が向いたらそのうち教えてやる」
なぜか不機嫌に呟いて早足になるアッシュの後を、慌てて追いかける。
満月の照らす渓谷に、突風に散らされた花びらが舞い上がる。
その風に乗って届いたのは、懐かしい歌声。

「行こう!」

約束の旋律が聞こえる。
月明かりに輝く白い花。その先に――――――




 ■  END ■ 





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